総合的な視点から環境学を考えるー私の環境学ー 【松本健一】
2014年05月15日(木) 10:18更新
1.はじめに
私が環境問題に関心を持ち、環境問題や環境政策の勉強・研究をしたい、そして将来的に関連する仕事に就きたいと考えるようになったのは、 1997年に京都で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)とその会議で採択された京都議定書であった。当時、私は高校1年生であり、その詳細について十分に理解していたわけではなかった。しかし、環境問題の非専門家ではあったが、連日の新聞などによる報道に触れる中で、気候変動(地球温暖化)問題という世界的に解決が急がれる問題が起こっているという認識を持った。
このような背景から、大学進学時は環境政策を学べる大学学部を選択し、大学では “気候変動問題から持続可能な発展(社会)をいかに実現するのか ”ということを研究する道を進むこととなった。
2.これまでの研究
2.1 学部
大学で環境政策を学ぶ中で、環境問題を解決するためには “環境 ”について考えるだけでは不十分であり、社会や経済、科学技術など様々な学問分野、グローバルな視点とローカルな視点、都市と地域など多様な側面を“総合的”にとらえて、持続可能な発展に向けてアプローチすることが重要であると強く意識するようになった。そのため、学部の性質もあったが、多様な学問分野を学んできた。
大学での研究は3回生からスタートした。当時も、高校時代から引き続き気候変動問題に関心を持っており、再生可能エネルギーの導入可能性について特に強い関心を持っていた。研究では、風力発電について、環境・経済・社会などの観点から日本で導入促進ポテンシャルはあるのか、またそのためにはどのような政策が必要であるのかというテーマに取り組んだ。残念ながら、この研究を完成させる前に大学院(修士課程)に進学することになったために1年間という短期での中途半端な形に終わってしまった。しかし、その中でも、今後の持続可能な発展に向けて再生可能エネルギーの持つ大きなポテンシャルについて考えることとなった。
2.2 大学院修士課程
修士課程では、再生可能エネルギー・風力発電から少し範囲を広げて、日本の発電部門からの二酸化炭素の排出削減ポテンシャルについての研究に取り組んだ。日本では発電にともなう二酸化炭素排出量が非常に大きいものであり、発電部門における対策が気候変動問題を解決する上で最も重要であると考えていたからである。
当時、日本の二酸化炭素(および、その他の温室効果ガス)の排出量が増加傾向にあり、京都議定書の第一約束期間(2008~ 2012年)の目標が達成可能かどうか、大きな議論となっていた。そこで、日本を対象として、第一約束期間の中間年である2010年に発電にともなう二酸化炭素排出量がどの程度削減可能であるのかについて研究を行った。
研究の内容を少し紹介すると、 2010年の電源別の発電可能量と電力需要量を回帰モデルにより計算し、需給のバランスを考慮した上でどのような電源構成が可能であるか、そして発電による二酸化炭素排出量はどの程度になるかを考察する、というものであった。この研究では、環境・経済・社会などの側面を総合的に検討するという点に重点を置いた。それは、上で述べた理由からである。
2.3 大学院博士課程
博士課程では、“日本”・“発電”からさらに分析を拡大させて、“世界”・“経済全体”を対象として気候変動問題とその政策に関する研究に取り組んだ。この時に取り組んだ研究内容そのものや研究手法は、現在の研究の基礎となっている。
博士課程の研究では、環境税(炭素税)や排出権取引といった政策的側面により焦点を当てるようになった。このような政策を考える場合、経済的側面を考慮することが不可欠であり、従来から様々な経済モデルを用いた分析が行われてきた。私の1つの研究では、応用一般均衡モデルを用いて炭素税、特に先進国と発展途上国の両者の置かれる状況を踏まえた炭素税の環境・経済影響評価を行った。
また、それと同時に新しい分析手法にも関心を持ち、エージェントベースモデル(マルチエージェントモデルなどとも呼ばれる)を用いた排出権取引市場の分析にも取り組んできた。 この時の研究でも、やはり環境問題を一面的に見るのではなく、できる限り多面的に考察することを心がけた。
2.4 研究者として
大学院修了後は、1年間の大学での研究生活を経て国立環境研究所(国環研)において、気候変動問題・政策のシナリオ分析に主に取り組んだ。国環研は、社会科学系の研究者がほとんどおらず、自然科学系(理学・工学・農学。そして、それぞれの分野での専門も様々)を専門とする研究者がほとんどという、大学・大学院時代とは全く異なる環境であった。また、国内外の研究者との共同研究などを行う機会も頻繁にあった。
このような環境の中での研究で、環境問題は様々な意味で“総合的”な視点から考えなければならないものであると改めて認識した。それぞれの分野で問題に対する認識・検討されている問題・政策(対策)が異なる場合もあり、そして、それらの間にトレードオフの関係が少なからず見られるからである。また、専門家としての視点だけではなく、問題の解決に向けた方策をその実施主体である一般市民(非専門家)にいかに伝えていくのか、という点の重要性についても考える機会であった。
3.今後の研究
現在は、気候変動問題と同時に、気候変動と密接に関連するエネルギー問題に特に関心を持って研究を進めている。現在、中国やインドをはじめとする新興国でのエネルギー需要が急増する中で、エネルギー資源の有限性が大きな問題となっている。そこで、人類は将来どの程度のエネルギー資源を利用できるのか、エネルギー安全保障の観点から問題はないか、代替エネルギーは十分に存在するか、気候変動問題とエネルギー問題はどのような関係で今後進んでいくのか、などに関心を持っている。そして、このような研究を通じて、日本、そして世界のエネルギー政策・環境政策の役に立てることができればと願っている。
4. おわりに
環境学(に限らないが)は、文理の垣根なく総合的な視点を持ってある問題について考え、その解決策(あるいは予防策)を導く学問であると考える。人類の持続可能な発展に向けて、今後もますます環境学の重要性が高まる中で、ひとりひとりが環境学に限らず多様な分野に関心を持つこと、そして多様な分野の人々と協働できることが重要になっていく。
また、環境問題の解決は決して専門家だけでできることではなく、一般市民の役割が非常に大きい。専門家と一般市民がコミュニケーションを取って、連携をしながら環境問題の解決に向けて行動していくことが重要になるであろう。
(『環境科学部 年報 第16号』 2012年3月31日)