入試情報 資料請求 在学生の方へ 卒業生の方へ

廃プラリサイクルの事例に見る国際資源循環の課題(その3):国際的なプラスチック規制に向けた動向 【林 宰司】

2024年10月04日(金) 11:36更新

廃プラ貿易の課題

詳しくはその1およびその2で見た通りであるが,概要をまとめると次の通りである.

中国が2018年にリサイクル可能な混合プラスチックの輸入を禁止したことにより,世界のリサイクルシステムに波紋を広げた.現在,プラスチックが適切にリサイクルされる行き先がない.

中国の廃プラ輸入禁止は2つの問題を明らかにした.1つめは,輸入禁止された廃プラの受け入れ先は規制の緩い国にシフトし,玉突き現象を引き起こしたことである.世界の廃プラのほとんどは,規制の緩い国や地域,特に東南アジアに流れ込んだが,これらの国々でも当初は過剰な輸入を阻止するだけの規制はなく,また,国内の廃棄物を管理する制度がなかった.そのため,マレーシア,ベトナム,タイは,中国の禁輸措置後,廃プラの受け入れ国となった.しかし,中国の禁輸措置が完全発効してから半年も経たない2018年半ばには,上記のこれら3か国は独自の規制を設けた.そうすると,主にアメリカ,ドイツ,イギリス,日本からの世界的な廃プラ輸出は,インドネシアとトルコに振り向けられるようなった.

2つめは,かつての輸出国は現在,未処理または不適切に処理された廃棄物の余剰を抱えていることである.世界全体では,2016年から2018年にかけてプラスチック輸出総額は約半分に減少した.その一方で,この間,回収の遅れや,回収されたリサイクル資源が埋立や焼却処分されるケース,長期間の備蓄,違法輸出など,地域のリサイクルや廃棄物管理システムの混乱が報じられてきた.

 

プラスチック規制に向けた動向

プラスチックによる環境汚染防止のための規制は,廃プラ貿易に伴う問題だけでなく,廃棄処分に伴う二酸化炭度排出や海洋汚染などを背景に,各国で循環経済への移行に向けた制度・政策の強化が進められている.しかし,プラスチックによる汚染をなくすためには,単に製品回収や適切な廃棄処分,リサイクルなどに個別に取り組むのではなく,循環経済へ転換することが必要である.

輸入廃プラの環境負荷については,2019年5月にスイスで開催されたバーゼル条約第14回締約国会議(COP14)で,「リサイクルに適さない汚れたプラスチック廃棄物」(石油類を入れたペットボトル,水洗いしても汚れや臭いが取れないプラスチック容器など)を条約の規制対象に加える改正が決議された.条約の各締結国は,規制に適合しない廃プラを輸出する前に輸入国の同意を必要とするよう,条約を担保する国内法を改正した.

また,2022年2月から3月にかけて開催された第5回国連環境総会において,「プラスチック汚染を終わらせる国際枠組み」の策定を目指す決議が採択され,交渉が進められている.検討されている規制の対象は,プラスチック使用製品の製造,使用,廃棄などプラスチックのライフサイクル全体に及ぶ.2024年4月に開催された政府間交渉委員会(INC)の会合では,プラスチックの生産制限に関する合意が得られず,2024年11月に韓国・釜山で開催される次回会合へ持ち越された.

 

プラスチック条約策定に向けた国際交渉は目下のところ議論継続中であるが,地域的な多国間協定の先進事例であるEUのケースを見てみると1,バーゼル条約が改正される以前は,EUは輸出国,輸入国,通過国における物品の移動に相互通告義務を課し,締約国は多国間ベースで互いのリサイクル資源の貿易を監視していた.さらに,2003年6月に開催されたIMPEL-TFS(環境法の実施と執行・廃棄物の国境を越えた輸送規制)会議では,加盟国が環境規制の執行を相互に支援することを合意した.つまり,EUは域内のリサイクル資源の貿易に関して,各国が足並みを揃えるシステムを導入している.そのため,加盟国間の国内法や規制はほとんど同じである.しかし,経済規模の違いにより,国内法・規制の内容を実施することが困難な国に対しては,支援を行っている国もある.今後は,EUで実施されているような体制を参考にしながら,世界的な循環経済システムを構築していく必要がある。

 

 

参考文献

1)環境省 環境再生・資源循環局 廃棄物規制課,欧州(EU)の廃棄物輸出入に関する 制度体系について,https://www.env.go.jp/recycle/yugai/conf/conf27-01/H270929_13.pdf,2024-09-30

 

リンク

その1:中国の廃棄物政策と日本の廃プラリサイクル

その2:リサイクル資源貿易の課題

その3:国際的なプラスチック規制に向けた動向