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廃プラリサイクルの事例に見る国際資源循環の課題(その2):リサイクル資源貿易の課題 【林 宰司】

2024年10月02日(水) 04:13更新

廃プラ受け入れ国の変化

中国の輸入禁止以降の各国の廃プラ輸入量の統計を見ると,マレーシア,タイ,ベトナムが特に大量の廃プラを受け入れていることがわかる.図1は,2016年1月から2018年11月までの中国本土,マレーシア,ベトナム,タイの廃プラ輸入量の月別推移である.しかし,2018年後半以降,これら3か国の輸入量も減少している.というのも,この3か国も2018年半ばから次々に独自の輸入規制を導入し始めたからである.中国の廃プラ輸入禁止後,東南アジア諸国が廃プラの受け入れ国として輸出先がシフトしたのだが,これらの国においても廃棄物が不十分な設備のリサイクルプラントで処理されたために,リサイクルに伴う環境負荷が問題となる事案が多数発生するようになった.そのため,これらの国は独自の廃プラ輸入規制を導入するようになったのである.その結果,廃プラリサイクルに伴う環境負荷の発生国は,先進国から中国,次いで東南アジア諸国へ移転するという玉突き現象が起きた.

図1 2016年1月から2018年12月までの中国本土,マレーシア,ベトナム,タイによる廃プラ輸入量

出所:国連商品貿易統計データベース1のHSコード3915(プラスチック廃棄物・くず・スクラップ)を基に筆者作成

上記の3か国が廃プラの輸入規制を実施した後,日本をはじめアメリカ,ドイツ,イギリスからの世界的な廃プラ輸出は,インドネシアとトルコが受け入れ国となっている.これらの国々でも近い将来,廃プラの受け入れとリサイクルに伴う同様の問題が生じることは予測が容易いだろう.

 

廃プラ貿易に伴う環境問題

リサイクル可能な廃棄物の貿易をめぐる環境負荷はいくつかの工程で発生する.は,先進国-途上国間のリサイクル資源をめぐる貿易を模式化したものである.太い矢印は,流量の多いルートを示している.この図を参照しながら順に見ていこう.

 

図2 先進国・途上国間のリサイクル資源貿易のフロー

出所:参考文献2をもとに筆者改変

プラスチック製品の多くはバージン資源から生産されるが,一部は使い終わって廃棄物となったプラスチックから分別・リサイクルされた再生資源から生産される.発展途上国では所得の上昇と共にプラスチックの消費量は増え,同時に廃棄量も増加してきている.

分別や適切な処置がなされた後に再資源化可能な「資源ごみ」(リサイクル資源)は,国内でリサイクルされ再生資源に転換されるか,国外に輸出後にリサイクルされ再生資源に転換されるかのいずれかであるが,大部分は途上国の労働賃金やリサイクルのコストが安価である途上国に輸出される.

リサイクル資源の貿易およびリサイクル製品の貿易を通じた国際資源循環の協力体制には,実に多くの工程で問題が生じうる.

第1に上述した労働コストが安価な途上国でリサイクルを行うことは効率的な国際分業の観点から合理的なことである.しかし,日本をはじめとする先進国では,許認可の関係でリサイクルコストが途上国よりも相対的に高く,それが廃棄物処理の費用やリサイクル資源の取引にも影響している.先進国-途上国間の規制の格差がリサイクル資源貿易の1つの要因ともなり得るが,規制の格差によってリサイクルを行う途上国に環境負荷を押し付けることがあってはならない.

第2に,途上国に輸出された資源ごみは,資源含有率の高いものから低いものまで様々である.リサイクル資源は,排出者から輸入者の手に渡るまでの主体数・取引工程の連鎖が長いため,貿易品の内容に関する情報が失われやすい.そのため,資源化可能な廃棄物が価格競争にさらされると,買い手にはその品質がわからないという情報の非対称性が存在するため価格情報だけで選択されることになり,市場においては資源の含有率が低い廃棄物の方がより選択されやすいという「逆選択」が進むことになってしまう.なお,再生資源化できない廃棄物についてはバーゼル条約(正式名称は「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」)によって貿易が禁止されているが,先進国での処分費用を節約する目的で偽装や混入などにより途上国に違法に輸出され,輸出元の国にシップバック(船で返送)され国際的な問題となる事案も発生している.

第3に,途上国の不十分な設備のリサイクル工場で廃棄物がリサイクル処理されると,環境負荷が広がるリスクが大きい.具体的には水を用いて比重によりフレーク状のプラスチックを選別する際に廃水にマイクロプラスチックが混入して水汚染を引き起こしたり,プラスチックを溶解・再生する際に大気汚染が発生しうる.

第4に,バージン資源から生産されたプラスチック製品,再生資源から生産されたプラスチック製品を問わないが,途上国で消費され廃棄物となったプラスチックの資源ごみは,途上国国内の資源ごみ回収制度が未整備であるために,途上国国内で大量のプラスチックが廃棄・拡散され,途上国国内でもごみ問題が発生しうる.

第5に,近年は途上国でリサイクルされたプラスチック製品は品質が向上しているが,様々な種類のプラスチックが混合し再生された一部の製品は低品質であるため,先進国に輸出され消費された後に再びリサイクルすることが難しく,ごみとして処分されるしかなくなるものもある.

 

国際協力により効率的に資源循環を推進するためには,国境を越えた環境負荷の移転を防止し,1回限りのリサイクルではなくマルチサイクルのリサイクルが行われるように各国の政策を調和することが課題であると言える.プラスチックにかかわる環境汚染に対処するための国際条約制定に向けた国際交渉については現在進行中で,2024年中の合意が期待されている(その3を参照).

参考文献

1)UN Comtrade Database, https://comtradeplus.un.org/,2024-09-30

2)林宰司(2014),「再生資源貿易と公害輸出」, 綜合地球環境学研究所,『天地人』,第23号,8-9,https://www.chikyu.ac.jp/rihn-china/news/news23.pdf

リンク

その1:中国の廃棄物政策と日本の廃プラリサイクル

その2:リサイクル資源貿易の課題

その3:国際的なプラスチック規制に向けた動向