琵琶湖の湖魚から推察される自然環境の変化【林宰司】
2021年02月09日(火) 04:04更新
私は今年で滋賀県在住10年目になりますが,食べたことがある琵琶湖の魚や料理と言えば,ビワマス,鮎,エビ豆くらいです。鮒寿司も数回食べたことがあるという程度で,それ以外の琵琶湖の漁業資源についてよく知らないので,この機会に色々な湖魚を食べてみようと思いました。
湖魚を扱っている長浜の直売所に行きましたところ,その日は,ワカサギ,小鮎,スゴモロコの他に,湖魚としか書いていないものが売られていました。価格は1パック(500g),それぞれ上記の順に,960円,950円,650円,200円で,どれも見た目は似たような小魚であるのに「湖魚」と書かれたパックだけ異常に安かったのが気になりました。店員さんに「湖魚」の種類が何であるかを尋ねると,ハスの子供やその他色々な魚が混じっているということでした。
食べてみるとワカサギとスゴモロコは身が柔らかく,小鮎は香りよくおいしく食べられます。鮎は別名を「香魚」と言いますが,正に納得です。「湖魚」のパックの魚種不明のものは,食べられますが風味がなく,骨が口に残ります。地元の漁師さんたちは,オイカワやハスなどを「じゃこ(雑魚)」と呼ぶそうですが,それもうなずけました。先の価格設定はそれを反映したものであることが,「百聞は一食に如かず」でした。
「湖魚」の魚種が何であるのかが気になり,素人ながらwebの魚類図鑑を片手に同定してみることにしました。ハスの特徴はしゃくれた口にあるようですが,幼魚の時はしゃくれていないようです。ハス子の他に,多い種類の魚が何であるのかがよくわかりませんでした。エラから急角度で切れ込んだ側線の特徴はオイカワのようですが,もう1つの大きな特徴の将来婚姻色になるであろう箇所の縞模様が見られません。
困り果ててwebで色々調べているうちに,琵琶湖にはオイカワとカワムツの雑種がいることがわかりました。琵琶湖には他にもハスとオイカワの交配種もいるそうです。これらの雑種の生態はよくわかっておらず,次の世代で生殖が可能であるかどうかもよくわからないようです。(なお,筆者は環境経済学が専門であり,魚類の専門家ではないので魚類の同定はできません。同定しようとして個人的に楽しんだだけなのでご注意願います。とにかく,調べたことによって交雑が起きているという事実がわかりました。)
また,スゴモロコの「スゴ」が何を意味するのか調べてみましたところ,「卑しい」という意味,「雑種」を意味することがわかりました。スゴモロコはホンモロコが他の魚種と交配して固定した種だというわけです。絶滅が危惧されている「ホンモロコ」は美味しいから「本」と名前についているのだということを聞いたことがありますが,他種との交配によって漁業資源が劣化しているという点でそれも納得がいきました。漁師さんたちが「じゃこ」と呼ぶ魚は,本命の魚に対しての雑魚であるとともに,魚種が雑種化しているという意味でも「雑魚」なわけです。
雑種が生まれた背景について調べると,河川改修や護岸工事などによって琵琶湖および流入河川の生態系の多様性がなくなり,棲み分けしていた魚種が混泳するようになったからであることがわかりました。人為的な影響によって雑種化が進み,漁業資源の劣化が起こっていることは明らかで,湖魚を食べることが少なくなったのはそのせいでもあるわけです。今回は「湖魚」の魚種の同定には至りませんでしたが,湖魚を通じて,人と自然との付き合い方が,琵琶湖の恵みを食料として利用しながら自然と共に生きていたのが,自然を制御しようとする余りに弊害を引き起こしている状態に変化してきたことが推察されました。