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廃プラリサイクルの事例に見る国際資源循環の課題(その1):中国の廃棄物政策と日本の廃プラスチックリサイクル 【 林 宰司】

2024年10月02日(水) 02:05更新

中国国内の環境意識と廃棄物政策の変化

2016年に公開された「プラスチック・チャイナ」というドキュメンタリー映画をご存じだろうか.この映画では,中国に輸入された使用済み廃プラの現地リサイクルの実態が端的に描写されており,取材対象となった一家が不衛生なプラスチック資源に囲まれて暮らしながら,本来なら教育を受けるべき年齢の少女を含む家族総出で分別・加工・袋詰め作業を行っており,貧困・環境汚染・健康問題など,様々な問題について大きく採り上げている(図1参照).

また,この映画には,プラスチック資源として欧米や日本から中国に輸入された容器包装材が登場する.先進国で廃棄されるプラスチック容器包装材の一部は不衛生な労働環境のもとで選別され資源化される一方,単に焼却されるものもあることが明らかにされている.

図1 Plastic Chinaで描写されている廃プラスチック分別の現場

出所:Plastic China Web, https://www.cnex.tw/plasticchina

このようなリサイクル現場の実態が明らかになるにつれ,中国国民の問題意識が高まった.中国政府は国内の廃棄物政策とリサイクル政策を整備するとともに,2017年から廃プラを含む固形廃棄物の輸入制限を段階的に制限し,2021年に全ての外国からの固形廃棄物輸入禁止政策を取るに至ったが,その背景として上記の映画が少なからず影響していると言われている.

日本の廃プラの行き先

2003年以降の日本から中国への廃プラ輸出取引量は図2の通りである(中国への廃プラ輸出は香港を経由するものもあるため,グラフには対中国輸出量と対香港輸出量を合算して示している.).図2を見て明らかなように,中国が固形廃棄物の輸入制限を開始した2017年の翌年の2018年から日本の廃プラの対中国輸出量は激減している.

中国の輸入制限発表(2017年7月)から実施(2018年1月)までに半年しかなかったために,経営破綻する日本の廃プラ輸出業者も見られた.またキャノンなど,これまで廃プラを有価物として中国企業に売却していた日本企業は,事業に伴って発生する廃プラの処理先の転換に追われた.1

日本国内で処理しきれなくなり保管場所に困るようになった廃プラはしばらくは国内で焼却や埋立処理されたが,その後,東南アジア諸国への輸出に向かうようになった(詳しくはその2を参照).こうした状況は日本だけでなく,日本と同様に中国向けに廃プラスチックを輸出していたアメリカやEU諸国でも同様であった.

図2 日本の廃プラ対中国輸出量

出所:筆者作成(廃プラ輸出量は国連商品貿易統計データベースのHSコード3915をもとに算出)

実は,日本の廃プラが中国の動向に影響を受けたのは中国の禁輸措置が初めてではない.日本は2000年に循環型社会形成推進基本法を導入して各種リサイクル法を制定し,当初は国内の分別制度と高度なリサイクル技術を前提として国内での資源循環を企図していた.ところが,日本国内で分別された廃プラは,リサイクル(ただし,その技術水準は日本より低い)のコストが安価な中国へ流出することとなり,日本から中国への廃プラ輸出量は大幅に増加した.2005年には中国ではプラスチック製品に52.4%の再生資源を使用し,バージン原料の使用を上回った.

リサイクル資源が大量に海外に流出すると,国内の優れたリサイクル設備が遊休化し,質の高いリサイクルが停滞することになってしまう.一例を挙げると,帝人(株)は環境省の研究開発補助金を得て世界初の使用済みペットボトルからペットボトルを再生する「ボトル to ボトル」リサイクル技術を開発し,2003年11月に操業を開始したが2,3,中国での使用済みペットボトルの需要急増に伴い,日本国内での使用済みペットボトルの調達が困難になったため,2008年に止む無く同事業の休止を決定することとなった4

 

中国の動向に日本が受けた影響

以上をまとめると次のように要約できる。リサイクル産業に限らず,ある国の産業は,貿易を通じて他国の産業の動向や政策の影響を受ける.貿易を通じた産業構造の調整は,特に産業が他国に引き抜かれて衰退する側の国で問題となりやすい.2000年代に入ってからの日本の廃プラリサイクルは当初は高度なリサイクル技術をベースとした国内での廃ペットボトルの資源循環を企図していたが,急速な経済成長のために廃プラ資源を必要としていた中国が日本の廃ペットボトルを大量に輸入したため,日本国内の資源循環政策は当初のものから変更を余儀なくされた.2018年の中国の廃プラ禁輸措置により日本の廃プラは輸出先を失い,日本国内の廃プラ輸出業者の中には倒産した企業も少なくない.日本国内のリサイクル量の増加についてもすぐには対応できず,しばらくは償却処分または埋立処理がなされた.数年後,新たに東南アジア諸国に輸出されるようになった.

参考文献

1)日本経済新聞:廃プラ日本滞留,中国輸入停止で 再利用策急務に,2018年7月19日

2)毎日新聞:ペットボトル完全リサイクル 帝人・世界初 海外へ技術提供,2003年7月5日夕刊

3)日本食糧新聞:帝人グループ、半永久的にPETボトル再生実現「ボトルtoボトル」始動,2003年11月21日,9244号 1面

4)日本経済新聞:帝人ファイバー ペットボトル再生停止 中国への輸出増加で容リ法での原料調達ゼロ,2005年6月29日

リンク

その1:中国の廃棄物政策と日本の廃プラリサイクル

その2:リサイクル資源貿易の課題

その3:国際的なプラスチック規制に向けた動向