障がいのある人の高齢化への地域サポートの強化【小野奈々】
2017年05月18日(木) 10:05更新
障がい者雇用を支援するNPOに招待されて、「つながることと働くこと」というタイトルで講演をする機会があった。私の講演が比較的短く終わってしまったこともあり、時間をかけてフロアーの方たちと意見交換する機会に恵まれた。強く記憶に残ったのは、「障がいのある人の高齢化に世の中はどう対応するのか」という課題の投げかけだった。
その日、集まった人はいろいろで、私を招いてくれた障がい者雇用支援NPOの職員さんもいれば、障がい者を積極的に雇用しているという企業の担当者もいた。だが、先の課題を示してくれたのは、どの組織にも所属していない一般参加の方で、障がいのあるお子さん(「お子さん」といっても、年齢はもう40〜50歳になる)のいるお父さんだった。講演のタイトルをみて参加を決めたそうだ。
私が話した内容はシンプルなものだ。地域で人がつながるポイントのことを「関係のつなぎ目」と呼んでいる[1]。「関係のつなぎ目」が失われつつある現状を踏まえて、地域の高齢者の孤立を防ぐために、ボランティアや企業組合といった「半市場経済[2]」における「労働の場」の一層の活用が有効だ、というものである。これに対して、そのお父さんは「障がいをもつ私の息子は、先生の話よりも大分前のところで苦労しているのですよ」と述べられた。お父さんは立ち上がって、熱く話し始めた。
お話の中で、これは早急に考えなければいけないと感じたのは、高齢になった障がいのある人への地域サポート体制の強化である。お父さんは、元々関西の某県で息子さんと暮らしていた。けれども、最近、息子さんを連れて大阪府に転居した。それまで住んでいた地域が暮らし辛い、と感じたからだ。暮らし辛さのひとつは、障がいのある息子さんの生活機能が40歳を超えてから急激に衰えたことである[3]。症状の詳細はお話しされなかったが、身体・心の両方の機能が下がってきたために介助が大変になったのだそうだ。そしてもうひとつは、介助の大変さを軽減してくれるサポート体制がその地域になかったことだった。介助を支援する施設やサービスの拠点がなかった。だからそれが期待できる大阪府に転居したのだという。
私の講演は、勉強不足もあり、障がいのある方の高齢化を十分に含めた想定になっていなかった。「つながるために、働く」という講演は、このお父さんには遠い世界での呼びかけに感じられたに違いない。自省も含めて、社会の対応を省みると、今私たちは、障がいのある人の高齢化へのサポートを十分に考えてきただろうか。「高齢者」の大枠で定義される人たち全般への支援や、障がいのある若者(イメージとしては10〜30代)の雇用支援は、十分と言えないまでもある程度「課題」として認知されてきた。だが、障がいのある人の高齢化(40代以上)への支援は「課題」として十分に認知されているだろうか。
70歳に近くなった父親が、40-50歳になり急激な加齢・老化を見せ始めた子を連れて住み慣れた土地を離れ、大都市圏への転居を決心した。自身の加齢・老化にも直面しているだろう。早期に老化が始まった障がいのある息子の介助のために新天地で始める生活は大変困難なはずだ。「障がいのある人の高齢化への地域サポート体制の強化」。今はこれを緊急の社会課題のひとつとして広めなければならないだろう。障がいのあるお子さんのいる親御さんたちがそれぞれの住み慣れた土地に暮らし続けながら、家族とともに気持ちが休まる毎日を迎えられる社会、障がいのある人自身が安心して年齢を重ねていける社会を実現していかなければならない。
【注】
[1]詳細は参考文献(1)を参照。
[2]内山節の用語。詳細は参考文献(2)を参照。
[3]障がいのある人は、早い人では40歳前後から高齢症状が出現するという報告もある。参考文献(3)を参照。
【参考文献】
(1)小野奈々(2015)「(会員だより)つながること」『協働総合研究所 所報 協働の發見』第268号, pp.90-93, 2015年3月.
(2)内山節編(2015)『半市場経済 成長だけでない「共創社会」の時代』角川書店.
(3)成田すみれ(2009)「障がいのある人の高齢化に伴う現状と課題」『月刊ノーマライゼーション』339号, pp.777-780.