久しぶりの欧州への渡航【平岡俊一】
2023年06月08日(木) 10:51更新
2023年の3月下旬に欧州・オーストリアに行ってきました。同国には2014年から19年まで毎年訪問し、継続的に調査を行ってきたのですが、新型コロナウィルスの影響でしばらく行けず、今回は約3年半ぶりの渡航になりました。
この間、新型コロナ以外にも世界規模でさまざまな出来事が起きました。今回の欧州への渡航では、それらの影響を受けて今までにはなかった経験をいくつかすることになりました。
ひとつめは、欧州までの航空便です。ロシアのウクライナ侵攻によって、日本-欧州便はロシア上空を避けて飛行しているため、所要時間が大幅に長くなっています。私が乗った便はフィンランド・ヘルシンキ行きでしたが、羽田空港を離陸した後、まず太平洋上をアラスカに向かって飛び、ベーリング海峡から北極海に入り、北極・グリーンランドを超えて大西洋に入り、北欧に向かうという、なかなかダイナミックなルートでした。
最終目的地までどこにも経由しない直行便でしたが、搭乗時間は約14時間と以前より3~4時間ほど多くかかる長旅になりました(なお、欧州からの復路については中央アジアを横断するルートもあるようですが、私が乗った便は往路と同じ北極ルートでした)。
ふたつめは、物価高と円安の影響です。まずこの間の物価高の影響で、欧州の飲食店の価格自体が以前より軒並み上がっている印象でした。さらにそれに加えての円安というダブルパンチで、普通のレストランに入って何も考えずに注文していると1人分で軽く4000円を超えてしまい、ファーストフード系の店でも下手をすると2000円以上になってしまうという、日本人にはかなり痛い状況になっていました(ただ、ホテルの宿泊料やスーパー等で売っている日用品などの価格は以前とあまり変わらない印象でした。それでも円安の影響のほうはしっかり受けてしまいましたが…)。
もうひとつ驚かされたのは、欧州では繁華街や公共施設、交通機関などでもほとんど誰もマスクをしていなかったことです。調査で訪問した自治体などの関係者もアジアからやって来た我々と話をしている間も誰一人マスクをしていませんでした。今年3月頃と言えば、日本では大半の人がまだ外出時はマスクを着用していた状況でした。事前にその情報を聞いてはいたものの、到着直後に空港や電車の中で本当に誰もマスクをしていない光景を見た際は、その状況に戸惑い、自分たちはどうするか迷っていたのですが、すぐに現地の雰囲気に飲み込まれ、滞在中はほとんどマスクを外した状態でいました(さすがに混み合う交通機関の中ではマスクを着用していましたが、まわりでしているのはアジア系の人(日本人?)に限られるという感じでした)。
現地在住の方によると、2022年に行動制限が解除されると同時に、多くの市民は一斉にマスクをするのをやめたそうです。このあたりは、国民性の違いや普段からのマスク着用の文化(日本はコロナ前から体調が悪くなくても花粉症や風邪予防でマスクをすることが普通だった)の有無などもあるのかなかと思います。ただ、ひとつ興味深かったのは、欧州から帰国するために搭乗した飛行機の中で、羽田空港に到着するまでマスクをしていなかった欧州系の乗客の多くが、到着した途端にマスクを取り出して着用し始めた、という姿が見られたことです。やはり欧州でも「郷に入れば郷に従え」ということでしょうか?
ここまで肝心の調査の中身と関係ない話ばかりになってしまいましたが、最後に少しだけそのあたりのことに触れたいと思います。私は、複数の大学教員やNPOスタッフなどで構成された研究チームのメンバーとして、これまでオーストリアの地域・自治体レベルでの気候エネルギー政策や持続可能な地域づくり推進のための仕組み・組織体制(ガバナンス)をテーマにした研究を継続的に行ってきました。今回は、そうした取り組みの担い手となる人材の育成・教育などに注目した調査を行いました。以下では、その一環として訪問した、同国西部のフォアアールベルク州内にあるモンタフォンという山岳地域(人口1万6,000人)で実施されている、地域づくりの担い手育成を目的にした「青年議会(ユースフォーラム)」という取り組みを紹介したいと思います。
同地域内には、10の基礎自治体によって構成されている「Stand Montafon」という自治体連合組織があります。青年議会はこの自治体連合によって2016年に設立された組織(事業)で、子ども・若者の間に住民参加の文化を育てることを目的に、若者同士の議論の場(議会)や独自の予算をもったうえで、地域づくりに関連する社会的プロジェクト(若者映画館づくり、農家マーケット開催、若者が集まる場づくり)の実践、自治体連合が行う各種地域計画の策定作業への参加、連合を構成する村長との定期的な意見交換、などの取り組みを展開しています。一連の取り組みには、自治体連合に雇用された専門のコーディネーターが伴走し、支援を行っています。
日本でよく見られる子ども議会(議場で議論して、提言等を行う)よりも踏み込んで、若者たちが自ら進行管理しながら地域づくりプロジェクトを実践したり、自治体の政策プロセスに参加し、成功(+失敗)体験を積み重ねたりすることを通じて、地域社会や民主主義について学び、関心を高めていくことを目指した取り組みと理解することができます。日本でも最近になって子ども・若者などを対象にした地域教育活動が活発化していることもあり、とても参考になる試みだと思われます。