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COVID-19と滋賀県 【香川雄一】

2021年03月01日(月) 11:15更新

2020年は新型コロナウイルスの影響で、全世界が2019年までとはまったく異なる社会になってしまいました。滋賀県立大学においても、2020年度の前期はほぼ遠隔形式の授業となってしまい、夏休み期間中に一部の対面授業が実施されただけとなりました。東京や大阪などの大都市圏をはじめとした多くの大学とは異なり、後期はほぼ完全対面で授業を実施できていましたが、全国的な第3波の影響とともに2021年1月の滋賀県による警戒レベルの引き上げによって、学期の最後まで対面で実施できた授業はごくわずかとなってしまいました。こうした新型コロナウイルスに関して、本コラムにおいても2020年4月と6月に平山先生の執筆による関連記事が掲載されています。
http://depp-usp.com/archives/5123
http://depp-usp.com/archives/5148

環境政策・計画学科と新型コロナウイルス(COVID-19)の関係となると、ちょっとピンとこないかもしれませんが、上記の掲載済みコラムのように予防対策や生活への影響は広い意味で環境問題ともかかわりがあると考えられます。さらに今回のコラムで紹介するように、新型コロナウイルスへの感染に関わるデータは、毎日のニュースでも見かけているはずで、日本全国や都道府県別の新型コロナウイルス感染症患者(以下、感染者)の増減を、関心を持って眺めていたのではないでしょうか。 滋賀県の場合も県庁のホームページで、この1年間はほぼ毎日の頻度で感染者の新着情報が更新されてきました。
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kenkouiryouhukushi/yakuzi/309252.html

本学科の授業では、人間看護学部と違って感染症についての授業があるわけではありませんが、こうした地域に関する情報や統計データを理解し、最終的には卒業研究につなげていくために、「地域調査法」や「地域調査法演習」、「基礎統計」や「応用統計学Ⅰ・Ⅱ」といった地域分析や統計データの処理に関する授業があります。滋賀県のホームページで公開されている新型コロナウイルスへの感染に関する情報から、どのように滋賀県という地域を理解できるか、その簡単な例を紹介していきましょう。

まず、ニュースでもよく見かける感染者数の棒グラフです。滋賀県内では2020年3月5日に初めての感染者の発生が報告されました。その時点から、このコラムを執筆した2021年2月末日までに合計で2,470人に達しています。東京都をはじめとした首都圏や、京阪神大都市圏に含まれる大阪府・京都府・兵庫県に比べると少ないとはいえ、多い人数です。月別の変化を見てみると、最初の緊急事態宣言のころ(2020年4月)はそれほど増えていなかったのに、第2波の8月、第3波の12~1月は急激に増加していることが分かります。はじめは感染者数の増加を制限できていたのに、ニュース報道にもあったように人々の移動が増えると滋賀県も影響を受けてきていたことが分かります。直近の2021年1月から2月への減少も緊急事態宣言の効果と言えるでしょう。

滋賀県におけるCOVID-19感染者の月別変化(2020年3月~2021年2月)

次に紹介したいのが、やはり全国ニュースや情報番組でも紹介される感染者の年齢階層別の傾向です。棒グラフで分かるように、一見、年齢階層別の人口構成を表現する人口ピラミッドのような形に見えますが、年齢階層別の感染者数はよく見ると下に示した、全体の人口構成とは違った傾向になっています。「10代」と「10代未満」が少ないので、少子化の影響とも見えなくはないかもしれませんが、「20代」の感染者数が年齢階層別人口の割には多いことが分かると思います。「40代」をピークに高齢者になると感染者数が減っているので、高齢化社会の割には高齢者の年代である「60代」や「70代」での感染者数は人口割合的に増加を阻止できているようです。学校に通うことの多い年齢階層である「10代」と「10代未満」も人口割合的には感染者数が少ないように見えます。

滋賀県におけるCOVID-19感染者の年齢階層別分布(2020年3月~2021年2月)

滋賀県における年齢階層別分布(2021年1月1日時点の推計人口)

(滋賀県の人口と世帯数:令和3年(2021年)https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/tokei/jinkou/maitsuki/316386.htmlより)

続いて二つのグラフを組み合わせた形で月別の年齢階層別人数をグラフ化しました。2020年6月までは滋賀県内の感染者数が非常に少ないため、7月以降に限って各月の感染者人数の割合を100%で置き換えた、帯グラフを作成しています。先ほどの棒グラフと同じく、ニュースでも20代の若者の感染が心配されていました。たしかに滋賀県でも「赤」で示した「20代」が目立っている月もありますが、徐々に他の年齢階層の割合も増えてきていて、最近の滋賀県では必ずしも若者だけが感染拡大の「原因」とは言えなさそうです。例えば10月と12月は「50代」が、2月は「40代」が滋賀県における感染者数の最高割合の年齢階層になっています。「30代」はその間に挟まれているのに、比較的感染者数が少ないのは「子育て世代」が多いからという理由も考えられるかもしれません。

滋賀県におけるCOVID-19感染者の月別年齢階層の変化(2020年7月~2021年2月)

都道府県単位のデータはニュース等でもよく見かけると思いますが、もっと細かな範囲での地域区分はあまり見たことがないかもしれません。滋賀県のホームページのデータには発生日別の感染者の年齢階層に加えて、市町別(「県外」という分類を含む)のデータもあるので、地図化してみましょう。本学科では選択必修科目ですが、統計データをパソコンで地図化するGIS(Geographic Information System=地理情報システム)の授業もあります。今回は地理学者が開発したMANDARAというGISソフトを使って作図しました。
市町によって人口が異なるために、「市町別感染者数」を「2021年1月時点での各市町の人口」で割った10万人当たりの感染者数の分布図になります。大津市、草津市、甲賀市といった県南部の市で感染者割合が多いことが分かります。個別のクラスターの発生要因もあるかもしれませんが、京都や大阪への通勤移動も影響しているかもしれません。県東部においては彦根市と甲良町でやや多くなっています。なんとなく人口に比例していると思えるかもしれませんが、同じく2021年1月時点での人口密度と比較すると、やや異なる傾向が見えてきます。感染症の特徴として、面積というよりは人口の方が影響を及ぼしているのは当然でしょう。「市町別感染者数」を「各市町の面積」で割って、1k㎡あたり感染者密度も計算して地図化してみました。これらの図から、少ない人数で感染者数を留めている市町があることも判明すると思います。
なお観光地や主要駅付近の往来人数の増減がニュースで報道されていますが、これはスマートフォンの移動記録等を用いたビックデータを使用しているので、公式の統計データとしては利用できません。

滋賀県におけるCOVID-19感染者の市町別分布(2020年3月~2021年2月)

 

滋賀県内の市町別人口密度(2021年1月1日時点の推計人口より)
(滋賀県の人口と世帯数:令和3年(2021年)

滋賀県内の市町別人口密度(2021年1月1日時点の推計人口より)
(滋賀県の人口と世帯数:令和3年(2021年)https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/tokei/jinkou/maitsuki/316386.htmlより)

滋賀県内の市町別COVID-19感染者密度(2020年3月~2021年2月)

最後に滋賀県内の市町別の割合変化を、2020年7月から2021年2月までについて、月別で示してみました。県庁所在地の大津市が全期間にわたって目立っていることと、甲賀市が月によっては顕著になっていることが分かります。他にも草津市や近江八幡市、長浜市が目立つ月もありました。やや気になるのは最近の2月になって彦根市が増えていることです。月によって人数が大幅に変動するので、この帯グラフの幅がそのまま感染者数の推移を示すわけではないのですが、滋賀県全体だけでなく、年齢別とともに市町別にも感染者数の動向を追跡していくべきだと考えます。

滋賀県におけるCOVID-19感染者の月別市町別割合の変化(2020年7月~2021年2月)

2021年度の学期開始を目前に控えて、通常の生活や、新型コロナウイルス感染以前の授業形態に戻りたいという気持ちを多くの人が抱いていることでしょう。2020年度からは遠隔授業やそれに用いていた動画配信ソフトなど、新たな教育の可能性も模索できるような時代に入ってきたといえます。大学生の皆さんにも、スマートフォンに加えて、パソコンやタブレットによって、時と場合に応じた学習への機器の利用が求められるところです。
これからの世界もマスクの着用や三密防止策などのアフターコロナの対策は必要になると予想できますが、新型コロナウイルスによるマイナスの側面を気にするだけでなく、大学生として在学中にスキルアップして地域社会に貢献できるように、情報処理技術の習得とそれにつなげられるような「問題を探せる」想像力の発展を期待したいと思います。