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何が侵略的外来生物を抑制するのでしょうか?【上河原献二】

2020年09月17日(木) 09:55更新

世界的な人・物の移動が増えるに従って、ブラックバス、ヒアリなど多くの侵略的外来生物が問題になっています。その拡散と繁殖は何によって抑えられるのでしょうか?生態学の創始者の一人と言われるイギリスのエルトン(1900-1991)は、1958年出版の記念碑的な本『侵略の生態学』の中で、「自然の多様性」こそが侵略的外来生物を抑制するという仮説を述べました(邦訳1971)。侵略的外来生物は、自然が破壊された場所で定着しやすくて、自然が豊かな場所では定着しにくいというのが、その論拠でした。その議論は、自然環境保全政策を支えることとなった『生物多様性の保全』の議論の出発点の一つとしても重要です。

他方で、私はもう一つ忘れてはならないことがあると思っています。それは人間社会による反応です。侵略的外来生物に対して、地域の人々や行政がどう対応するのかあるいはしないのか、というのも大切な点なのです。

その点を、琵琶湖・手賀沼などで問題になっているオオバナミズキンバイという中南米原産の植物について見てみましょう。イングランドでも、オオバナミズキンバイの小規模な群落が南部を中心に分布しているのですが、比較的良く抑えられています。その成功の要因としては、制度面では、①土地所有者に管理責任を求めるとともに政府がその管理を支援していること、②除草剤を厳しい管理のもとで活用しているという二つのことを上げることができます(Kamigawara et al. 2020)。それに加えて、イングランドには、大勢の植物愛好家とその組織が存在することも重要だと私は思っています。例えば、イングランドで最初にオオバナミズキンバイの野外定着が見つかったのは、環境団体(Wildfowl & Wetlands Trust)が管理している「ロンドン湿地センター」だったのです。見慣れない花の通報を受けて地域の植物愛好家がオオバナミズキンバイであると同定して、地域の植物誌の雑誌に記載しました(Bulloch 2011)。イギリスには、「植物記録者」(plant recorder)と呼ばれる人々を団体が各地域に配置する仕組みがあって、それによって各地域の植物が記録されているのです。その最初の報告文がすごいのは、お隣のフランスでオオバナミズキンバイが大きな問題になっていることを警告していることです(Burton 1999)。人間には周りから学ぶ社会学習の能力があります。侵略的外来生物のような初めての問題に対応するには、この社会学習も大切です。

日本でも、地域の自然史博物館の方々や地域の植物愛好家の方々が、オオバナミズキンバイの定着地を見つけて、報告し、記録しています。また、地域環境団体や漁業協同組合も侵略的水生植物管理に大きな役割を果たしています。周りで起きている課題を心に留めて地域の自然を見てくださっている方々が多くいてネットワークを形成していること、さらに、地域に対策を担ってくださる団体があることが、行政による対応に加えて、侵略的外来生物を抑制する上で大事なことなのです。

千葉県手賀沼のオオバナミズキンバイ群落(北柏ふるさと公園)