新型コロナウイルス感染予防対策をめぐる社会的ジレンマ Part 2【平山奈央子】
2020年06月01日(月) 10:32更新
学科HP閲覧者や滋賀県立大学の先生,在学生,卒業生の皆様にご協力いただき,新型コロナウイルス感染予防対策に関するアンケート調査を実施しました(調査期間:2020年4月17日から5月5日).その結果,146名の方々から回答をいただきました.まずは,主な結果についてご紹介します.
<マスク着用など4種類の感染予防対策の実施頻度>
マスクの着用と石鹸での手洗いについては約70%の人が「いつも実施している」のに対し,換気と消毒についてはそれぞれ約30%,35%しかいつも実施しておらず,実施頻度が異なることが分かります.ただし,80%以上の人がいずれの対策も実施する傾向にありました.
<1週間における外出頻度と目的>
外出頻度について,週の半分以上外出していた人が3/16~22には約85%であったのに対し,4/13~19には約60%まで減少しており,期が進むにつれて外出頻度が低くなっていることが分かります.また,外出目的では「生活必需品の買い物」と「運動・ペットの散歩」はほとんど変化していない一方で,その他の目的については期が進むにつれて外出を控える傾向にあります.特に,「外食」等の不要不急の外出については減少幅が大きくなっています.
<対策意識が高まった時期とその理由>
期ごとの対策意識が高まった人数は2月上旬から増加傾向にあり,4月上旬には64人と最も多く,7都府県を対象とした緊急事態宣言が4月7日に発出されたことや知事による外出自粛要請の影響が考えられます.その他,国内外の感染状況の報道や職場や学校からの連絡,身近な地域における感染者数の増加や高齢者との同居など家庭や地域の状況によって意識が向上したことが考えられます.
以上の結果を用いて,新型コロナウイルスに関する社会的ジレンマについて考えてみたいと思います.社会的ジレンマの定義は下記の3つです.
1.個人が協力・非協力を選択できる状況である.
2.個人にとっては協力よりも非協力の方が望ましい結果を得られる.
3.全員が非協力を選択した場合,全員が協力を選択した場合よりも悪い結果になる.
これを感染予防のための外出自粛行動に当てはめてみると,1.個人は外出するかしないかを選択できる,2.外出した方が日常生活を維持できる,ストレスがたまらないなど個人にとっては望ましい,3.全員がいつも通り外出すると感染が拡大し社会全体が大変なことになる,と置き換えることができます.要するに,外出しない方がいいことは誰もがわかっているけれど,「少しだけなら」「私一人くらい」という気持ちに甘えて出かけてしまう,という状況のことです.
ここでポイントとなるのは「いつも外出しない人」と「いつも外出する人」がいるのではなく,1人の人が外出したりしなかったり変化するということです.アンケートの結果から,3月中旬以降,期が進むにつれ外出の頻度が少なくなってきているのは,多くの人が感染拡大状況を理解し,自分や身近な人が感染するかもしれないというリスクを感じることで,外出を控える方に変化していることが考えられます.さらに,外出自粛行動は「利他的利己主義」と考えることもできます.つまり,社会全体としてより良い結果を得る(感染が収まる)ためには,自分の行動により他人にメリットがあり(自粛行動によって他者に感染させない),引いてはその行動が自分自身のためになる(感染が拡大しなければ自分が感染するリスクが下がる),というように他者のための行動が自分のためになるということです.アンケート結果から,身近な人や地域の感染状況によって対策意識が高まったという回答が比較的多く見られました.この様に身近な人を思いやること,自分自身へのリスクを認識することが,協力(外出自粛)を選択しやすい状況に繋がると考えられます.
この様に,社会的ジレンマは資源配分や環境配慮行動の実施など,個人の意思決定により公共の資源が侵される課題などについて考える際,興味深い視点です.
《謝辞》
本研究で対象とした新型コロナウイルス感染拡大により勤務や学業,生活で大変な時期に回答にご協力いただきました皆様に深く御礼申し上げます.また,調査票の配布にあたり滋賀県立大学 尾坂兼一先生,佐々木一泰先生,滋賀県立大学生活協同組合 理事・幹事の皆様,環境科学部環境政策・計画学科の在学生及び卒業生の皆さんにご協力いただきました.ここに感謝の意を表します.