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タイの大洪水とつながりでのリスクマネジメント【村上一真】

2019年12月10日(火) 11:32更新

今回は北上してタイです。
現在COP25がスペインで開かれていること、先週毎日、NHKスペシャルで首都直下地震の特集番組が放映されていたことから、タイのことを書こうと思って想起したのは、数年前の大洪水のことです。
タイには日系企業の環境経営に係る研究で、繰り返し訪問していました。下記写真は、ある工業団地内での浸水状況を表したものです。少し分かりにくいですが、電信柱の茶色い線(成人男性の首くらいの高さ)のところまで、水に浸かったとのことです。

また下記写真には真新しい壁が写っていますが、洪水後の対策として新たに設置されたものです。上記の写真の壁もそうです。この工業団地内では、このような新しい壁が多く設置されていました。

アユタヤは観光地として有名ですが、バンコクに近いため工場も集積しています。観光地近くの雑貨店には、下記写真の柱に小さく映っているように、日本語で「洪水のあと」と浸水レベルが記されていました。

別の研究として、2014年3月に「グリーン&レジリエントなサプライチェーン構築に関する研究」結果を公表しました。これは「サプライチェーンのリスクマネジメントに関するアンケート」を、近畿・東海9府県に本社を有す、従業員10名以上の一般機械、電気機械、輸送機械の全企業9,859社に送付し、回答のあった1,342社を分析、考察したものです。
今後発生が予想されている南海トラフ巨大地震への企業の対策等を明らかにする研究であり、例えば、納品先(顧客)からの要請状況については、以下のことが分かりました。なおBCPとは、Business Continuity Plan(事業継続計画)のことです。

・東日本大震災以降の納品先(顧客)からの要請に関して、「特に要請は受けていない」が67.2%と最も高い。また、BCPに関して納品先(顧客)からの要請等された経験についても、「BCPの有無は聞かれたことはない」が52.0%と半数強を占める。
・要請事項で最も多いのは「緊急時の代替生産等の生産体制の構築」(12.7%)であり、「調達先(サプライヤー)の仕入ルート等の情報提供」、「緊急時の部材融通等の調達体制の構築」と続く。
・業種別にみると、輸送機械における要請事項が多く、一般機械が少ない。また、BCPに関して要請等された経験も輸送機械の値が高く、一般機械は低い。
・本社所在地別にみると、中部:太平洋側における要請事項が多く、近畿:臨海が少ない(下の表)。また、BCPに関して要請等された経験も中部:太平洋側の値が高く、近畿:臨海は低い。

■東日本大震災以降、納品先(顧客)から要請されたことのある事項(複数回答、本社所在地別)資料:「グリーン&レジリエントなサプライチェーン構築に関する研究」報告書

企業において洪水や地震等への備えで難しいのは、自社の事業所・工場だけでなく、原料や部品などの調達先(サプライヤー)もきちんと備えをしてくれないと、事業が続けられなくなることです。つまり、サプライチェーンでのリスクマネジメントが求められるのです。このことは、上の表の地域内だけにとどまらず、タイなどの海外拠点も含めた他地域の調達先の備えに対するマネジメントも必要となります。さらに自然災害への備えに限らず、サプライチェーンでの温室効果ガスや適正な労働などへの対応も求められています。

そして企業だけでなく個人も、いかに事前に備えを進めるかが決定的に重要です。大雨・洪水に関しては、100年に一度、1000年に一度という確率評価は、気候変動により前提条件が大きく変わってきているため、ほとんど意味をなさないと思います。地震についても地震予知の限界があります。社会的な備えとしての公助に加えて、個人や組織の意識向上から始まる共助、自助が大切です。この観点から、Nスペのインパクトのある番組内容やメッセージがどこまで届いているのか、そもそもの視聴率(紅白歌合戦や滋賀県にもゆかりのある明智光秀の“波乱の”大河ドラマのものより)も含めて気になります。