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虹色エモーション【井手慎司】

2019年12月04日(水) 10:27更新

突然だが,全国の中でも虹がもっともよく(頻繁に)見える地域が,滋賀県の琵琶湖付近であることをご存じだろうか?

太陽光は,雨粒の中に入るとき屈折し,波長の異なる光(いわゆる七色)に分かれる.ただし,光が分かれたことだけで虹に見えるわけではなく,分かれた光の一部で,雨粒の内部に反射して,入ってきた方向と逆方向に最初に出てきた光が虹に見えるという.そのため,地上から虹が見えるためには,太陽光の入射角が大切となる.昼間のように太陽が高いときには見ることができず,低い位置にある朝か夕方の,にわか雨の後に日が射したようなときに,朝なら西の空で,夕方なら東の空で(つまり太陽を背にした方向に)見えることになる.

滋賀県は,琵琶湖の周りを山々が取り囲むような地形をしていることから,山沿いでにわか雨が多く――つまり虹がでやすく――かつ,真ん中に琵琶湖があるから,視界が開けていて虹が見えやすいのだそうだ.

実は数年前,滋賀県は真剣に,虹を県の観光資源として売り出そうとしたことがあった.2015年の秋に,「虹予報」と称し,県内を7つのエリアに分けて虹がその日の午前か午後にそれぞれ発生する期待度を8段階で指数化した「虹指数」をネット上で公開するとともに,女優の市川実日子が県内をサイクリングする中で琵琶湖のほとりで虹を見つけるCM「旅せよ乙女.虹色エモーション.『滋賀・びわ湖』篇」を放映した.

しかし,そんなこと知らない人がほとんどではないだろうか.プロモーションをやっていた期間はそれほど長くなく,虹予報の方は,当時開設されていた予報のページに現在はもうアクセスすることができない(なお,現在でも全国の予報の一部としてなら,日本気象株式会社の「お天気ナビゲータ」でチェックすることができる).CMのほうも,関西ローカル中心の,それもごくごく短期間の放映だったようで,オンタイムで見た人は少ないのでは……現在はYouTubeで見ることができるくらいである.

よく考えれば,無理もないのかもしれない.もし,県内のどこそこに今日行けば,何時から何時までの間に確実に虹が見えますよといった予報であれば,それを目当てに滋賀県に行ってみようかという気にもなるかもしれないが,それほど予報の精度が高いわけではない.虹指数がたとえ最大の7であっても,今日の午前か午後の間に「虹が見られそう!外を見てみよう!」といった程度のものである.予報の地理的範囲も,大括りのエリアごとのもので,そのエリアのどこに行けば一番よく見えるかなどもわからず,これでは観光資源にはなりにくい.これらのコンテンツは,地方創生交付金の1億5000万円で作られたそうだが,いわゆる“企画倒れ”だったのではないだろうか.

そもそも,虹はたまに,それも偶然に出会えるからこそ,幸せな気分になれるのだろう.これが100%間違いなく予測できるようになったら,出会える有難みも薄れるんじゃないかしら.もっと言えば,自然現象において精度100%の予報などどだい無理な話である.自然に対して科学が科学として正直であろうとすれば,最後はかならず,確率でしか説明できないのだから…….

とは言え,滋賀県で虹がよく見えることは,こちらに引っ越してきて以来,生活実感としても感じていたところである.頻繁に虹に出会えるという意味で,滋賀県で暮らしている人は全国の人に比べて,ちょっぴり幸せなのかもしれない.

話は変わるが,環境科学部では昨年の11月に,環境政策・計画学科の教員が中心メンバーとなって「湖沼流域管理研究センター」を開設した.海外の研究機関と連携して,湖沼流域管理に関する政策・社会科学分野における共同研究や人材育成を推進するためである.

そのセンターにつけた英語の略称が“LARC”(正式名称は“Lake Governance Research Center”)である.そう,有名なロックバンド“L’Arc~en~Ciel”の頭4文字の「ラルク」であるが,そもそもこのバンド名は仏語で「虹/虹色」という意味である.L’は男性名詞(そう,虹は男性なのだそうだ)の定冠詞Leの短縮形,Arcは「アーチ」,enは英語で言えば「in」,Cielは「空」を意味し,「空にある(架かる)アーチ」から「虹」に転じたものである.もちろん,センターが世界の国々と日本,世界の湖と琵琶湖との間にアーチを架け,幸せをもたらす「虹」のような存在でありたいとの願いを込めている.今後の活動に期待してもらいたい.