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近くの山の木で家を建てる 【井手慎司】

2015年03月30日(月) 08:46更新

私ごとで恐縮であるが,現在,滋賀県の湖西に家を建てている.木造となる家づくりで,一番こだわったのが建材の一部として地域の木,それも家から数百メートルのところにある知人の山の木を使わせてもらうことだった.

ところが,知人の父親の代に植えられたというその山の桧(ヒノキ)であるが,枝打ちや間伐などが十分になされておらず,真っ直ぐな部分が少なく,見るからに節も多そうだ.専門家に査定してもらったところ,案の定,原木としての価値は二束三文で,伐採や運搬にかかる費用を考えたら,伐るだけ山主の赤字になると言われてしまった.それでも,山のためにも間伐したほうが良いだろうと,なんとか頼んで,県の関連する補助金制度(間伐材の有効活用が条件)を利用して森林組合に伐採してもらい,地域の製材所に持ち込んだ.ちなみに,そんな原木を引き受けてくれる製材所は地域に一か所しかなかった.

よくわかっていなかったが,製材所が決まれば,取引のある工務店も限られてくる.まして,施主が勝手に用意した原木を,できる限り有効活用してくれるようなところとなると・・・候補となる工務店が地域にたった二社しかなく,工期の条件が合わず,そのうち一社からは断られてしまった.理解のある,残る一社がなんとか引き受けてくれたからよかったものの,下手をしたら,伐採した木がすべて無駄になるところだった.

一本一本の木に特徴があるように,それぞれにあった建材としての活かし方がある.家のどこにどう使うのか,それを見定めることを“木配(きくば)り”というそうだが,規格から外れた原木だけに,木配りにも製材にも,通常以上に手間暇をかけさせてしまった.幸い,それにかかった経費は,製材所の厚意で,県産材を使用することでもらえる県の補助金でなんとか賄えそうである.形ばかりだが,山主の知人にもそこからお礼ができそうだ.製材された木についても,最大限に活かすため,こちらは工務店の厚意で,接合部の加工など,大工さんにすべて“手刻(てきざ)み”でやってもらった.

ひと昔前ならどうなのだろう.自分や親せき,あるいは集落の山から木を伐り出し,木材にして,それで家を建てる,というのは,当たり前にやられていたことではないだろうか? 地域にとっても環境にとっても,その方が良いに決まっている.なのに,当たり前のことが当たり前にはいかないもどかしさ.一旦,廃れてしまった,昔のやり方でモノを動かそうとすると,いくつもの障害を乗り越えなければならない,これがいまの流通の宿命なのだろうか.

日本の林業が置かれている厳しい現状を,身をもって知る,良い機会になったのだった.
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