近くの山の木で家を建てる(その2) 【井手慎司】
2016年03月10日(木) 04:56更新
この教員コラムで前回,建材にこだわって知人の山の木で家を建てている話を書かせてもらった.その家も昨年の6月には無事に完成,住み始めてもう半年以上になる.そこで今回は,家づくりにおいて建材以外にこだわった点について忘れないうちに書いておきたい.
環境を専門にしているという職業柄,もちろん予算と相談しながらではあるが,家づくりにおいていろいろ試してみたことがある.まず外から見えるところから紹介すると,2階建ての屋根の上には太陽光パネルと太陽熱温水器が仲良く並んでいる.温水器の手前にある黒い煙突は後述する薪ストーブのための煙突である.1階部分はというと,リビング正面に庭に張り出したウッドデッキがあるが,その左に鎮座するのはウィスキー樽の雨水タンク(貯水量180リットル)である.これが夏なら,リビングの窓には,近江八幡市円山の西六商店さんに作ってもらったヨシ簀(縦横8尺×6尺)が目隠しと日よけのために立てかけられている.
これらのうち太陽光パネルと太陽熱温水器に関しては,その優劣についてここで論じておきたい誘惑に駆られるが,そのことについてはもう少し待って,1年間使用してみたデータが溜まってから,別の機会に書くことにしよう.
話を戻して,建物全体としては,この辺りの地域区分Ⅳの省エネルギー対策等級としては最上位の4等の断熱と結露防止の対策をしてもらった.窓という窓はすべてペアガラスにした.ついでに言うと,照明器具もすべてLEDである.
家の中での趣味も兼ねたこだわりは,何と言っても,上が燃焼室で下がオーブン,燃焼室の上の天板のリングを外すと直火調理も可能なイタリア製の薪ストーブである.このストーブのために,家の裏には昨年の夏休みにせっせと作った薪棚が2基ある.
ちなみに,通常の薪ストーブであっても,ダッチオーブン(分厚い金属製の蓋つき鍋)などを使えば,燃焼室でいろんなオーブン料理を楽しめるそうだが,わが家のものは専用のオーブンを持つ,完全に暖房兼調理用のいわゆるクッキングストーブである.オーブンの使い方は,庫内温度の調整は薪の投入量次第,所要時間も焼き色を見ながらという原始的な方法にはなるが,それ以外は,普通の電子レンジ・オーブンレンジと何も変わらない.むしろ庫内の容量が大きいので,いろんな料理を一度につくることができる.天板の上でお湯を沸かしながら,煮込み料理をしながらという使い方も当たり前である.
そんなわが家が完成して,なるほどと思ったのが,ご近所の人たちを見学に招いたときのこと.そのうちの一人が一通り見終わった後に言うのに「万が一のこと(災害)があっても,この家に皆で集まれば,なんとかなりますね(笑)」との感想.
そう言われてみればその通りである.たとえライフラインが災害で止まったとしても,クッキングストーブで煮炊きができるのは当然のこととして,水も雨水タンクに180リットル,温水器にも200リットル近い量が蓄えられている.家庭用蓄電池こそはまだ備えられていないが,太陽さえ出ていれば,切り替えで,太陽光パネルで発電した電気を家の中で使うこともできる.
環境という観点からしか家づくりを考えていなかったが,環境にやさしい家とはそのまま災害にも強い家であることに,気づかされたのだった.