COVID-19が滋賀県内の市町に与えた影響【香川雄一】
2023年01月31日(火) 03:04更新
2年前の本コラムにおいて、新型コロナウイルスの影響を受け始めてから約1年後までの滋賀県における感染状況を紹介しました(http://depp-usp.com/archives/5545)。当時はワクチン接種が本格的に始まっておらず、コロナ禍がどのような影響を大学生活に与えるのか、まだまだ不明でしたが、現在に至るまで感染状況の蔓延が続いているとはいえ、オンライン・オンデマンド形式の授業に慣れつつも、対面授業が常態化しつつあります。
大学生を含め、ワクチンの接種回数が重ねられていく一方で、国の方針によって感染者のデータ公開が簡略化されることになりました。医療従事者だけでなく、保健衛生部門の職員の皆様における多忙さからも、やむを得ない決断だったと思います。いずれ将来的には研究として、地域区分の詳細なデータによる感染傾向の分析も必要になるかもしれませんが、滋賀県民をはじめインターネット上で全世界に公開されているデータとしては、2022年9月26日までで市町単位でのデータの公開は終了となりました。滋賀県内で新型コロナウイルス患者が最初に発生した2020年3月から、約2年半のデータが蓄積されたことになります。
滋賀県のウェブサイトによると「令和4年9月12日付 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡『Withコロナの新たな段階への以降に向けた全数届出の見直しについて』に伴い、県で把握できる情報に限りがあり、ご報告できるグラフが少なくなることから、2022年9月26日分をもちまして日報の公表は終了しております。」と説明されています。(https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kenkouiryouhukushi/yakuzi/314006.html)
そこで2年前のコラムの続きを紹介するとともに、滋賀県内の市と町に与えた影響について、学科コラムとしても記録に残しておくことにしました。
滋賀県全体の感染者数は、報道からもわかるように、毎日の新規感染者数が公表されています(https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/koho/e-shinbun/oshirase/329720.html)。前回のコラムで紹介した時には、1年間の合計感染者数でもまだ2,500人程度でしたが、過去3年間で大きな波を数度、経験してきました。以下の折れ線グラフにあるように、2021年の夏、2022年の年始、夏、そして直近の2023年にかけての年末年始と感染者数が増加しています。新型コロナウイルスの影響が始まったころは大学も対面授業が中止となり、しばらくはオンライン授業中心でしたが、そのころよりも感染者数は圧倒的に増えているのに、今ではほぼ完全に対面授業へと移行しています。ウィズコロナが定着してきているといえるのでしょうか。
次に紹介したいのが、前回のコラムと同様に感染者の年齢階層別の傾向です。感染が増え始めた当時は、いわゆる若者世代である「20歳代」の感染が目立っていました。2年半が経過して合計してみると、「20歳代」では窪んでいるようです。それに対して「30~40歳代」と「10歳未満・10歳代」が多くなっています。この傾向はワクチン接種が遅れた、もしくは回避しようとしている子ども世代とその親世代に該当するといえるのではないでしょうか。感染すると病状が深刻化するかもしれない高齢者は感染者数的には相対的に多くないのです。「40歳代」と「50歳代」、それと「50歳代」と「60歳代」の間に大きな谷が見られるのは、人と人との接触頻度が減るからという考え方も成り立つかもしれません。2020年の感染初期と、現在に至るまでの合計では年齢階層別の傾向に変化が見られました。
続いて市町別にデータが得られた期間の感染者数を各市町の人口別に割合を計算して地図化しました。後でも使うように、人口統計データも滋賀県のウェブサイトで公開されています(https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/tokei/jinkou/kokusei/322323.html)。すべての市町で10%台と各市町間で大きな差は生じていませんが、1%ごとに区切ってみると地域的傾向を見出すことができます。まず南北差で「南高北低」という傾向にあるようです。滋賀県内の人口分布とも似ています。さらに細かく見ていくと、西側で高くなっているようです。滋賀県の地図だけだと分かりませんが、京都や大阪といった大都市との関係が想像できそうです。ただし湖西部分を含む、県庁所在地で人口最大の大津市よりも、草津・栗東・守山市の割合が高くなっています。県の南西部から離れるにしたがって、各市町別の割合は徐々に下がっているようです。
ここまでは約2年半の合計の数字から月別変化、年齢階層別および地域的特徴を示してきました。さらに細かく見ていくために、各月別の変化を年齢階層と市町に分けて推移を示すことにしましょう。なお2021年2月までは、前回のコラムでデータを紹介しましたので、今回は2021年3月から2022年8月までの1年半の傾向になります。2022年9月は得られたデータが9月26日までなので、月間としての比較ができないため除外しました。
2021年11月を除いて、どの時期もだいたい同じような区分傾向にあります。次第に若い世代である「10歳未満」と「10歳代」の割合が増えてきているようです。その動きと連動するように「30歳代」と「40歳代」も増えていることを見て取ることができます。2021年11月に高齢者の割合が高くなっているのは、全体数が少なかったにもかかわらず特定の年代で感染者数が増えてしまったからだと思います。こうした傾向から前回のコラムで示した年齢階層別構成が、1年半をかけて少しずつ変化してきたことが分かります。
同様に、市町別でも1年半の間の傾向を見てみましょう。ここでも2021年11月を除いて、徐々に推移してきたことが分かります。前回のコラムでは2021年2月時点で彦根市の増加が気になることを指摘していましたが、彦根市の割合が目立っていたのは2021年3月のみで、それ以降は人口が最大の大津市、第2位の草津市で割合がやや多くなっています。当然のことながら人口が少ない町部はあまり目立ちません。全体に対する割合や県全体を示すと細かい市町別の傾向は分かりにくくなってしまうので、市町単位で増減傾向を表示できるような方法を考えました。
各市町別および各月別に増減を示す指標として、以下の図では各市町の人口に対する感染者の割合を「0.1%未満=緑」、「0.1%以上~1%未満=黄」、「1%以上=赤」で着色しています。こうしてみると日本全国と同様に滋賀県内にも第~波の影響を受けていることがよく分かると思います。色の変化の次期的ずれによって感染の増減が速い場合と遅い場合、続く場合と途切れる場合などの傾向を示すことができます。ここでは先ほどの帯グラフで例外的な傾向であった2021年11月は目立っていません。そもそもの感染者数があまり多くない時点でやや増えてしまった年齢階層と場所が目立つ結果となってしまったのでしょう。
2022年9月27日以降は市町別にデータが得られないかもしれないので、2020年3月5日~2022年9月26日までの合計データに戻って、地域的特徴を示す数値と新型コロナウイルスの感謝者割合の傾向をまとめておきたいと思います。
まずは将来的にも心配されている高齢化率(65歳以上人口の割合)との関係を散布図で示しました。どうやら感染者率と高齢化率は反比例の関係にあるようです。分布傾向を示す補助線を描くと右肩下がりになりました。やや全体傾向から外れている市町もありますが、高齢化率の低い市町で感染者率は高く、逆に高齢化率の高い市町では感染者率が低くなっているようです。先に地図で示したように大都市から離れているから、人口が少ないからという理由もあるかもしれませんが、高齢化率が高いから感染対策に力を入れている、あるいは住民が注意しているから、ということも想像できるかもしれません。
最後に高齢化率とは裏返しの関係ともいえるかもしれませんが、2000年~2020年の市町別人口増減率と感染者率の関係を示してみました。高齢化率との関係とは逆に、人口が増加している(1以上)と感染者率が高く、減少している(1未満)と感染者率が低くなっているようです。ただし、人口増加率がもっとも高い市町で感染者率が最大ではなく、人口減少率がもっとも高い市町で感染者率が最小というわけではありません。こうした傾向は滋賀県内の市町としての全体像を示すのには便利ですが、事実を詳しく検討していくためには各市町のデータをさらに深く分析していく必要があるでしょう。
前回のコラムでも紹介しましたが、こうした地域に関するデータの分析は滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科の「地域調査法」や「応用統計学」に関する授業で学ぶことができます。大学によっては「データサイエンス」に力を入れているところもあり、2025年度入試からは「情報Ⅰ」が大学入学共通テストの試験科目となります。ついでに付け加えると2022年度からは「地理総合」が必修となりました。地域に関する統計データを利用して、調べたいことを分析するスキルを身に付けることが求められてきていると言えそうです。
これから大学入学を目指す皆さんが環境問題をはじめ、世の中のさまざまな課題に興味を持つことは勉強への意欲につながるかもしれません。大学では受験科目以外にもさまざまな学習方法があって、既存の統計データを収集するだけでなく、自分でデータを観測することも学べるようになります。一例としてのコロナ禍の世界という身近な問題関心から、滋賀県、さらには県内の市町、そしてそこに住む人々にも目を向けることによって、新たな発見や気づきがもたらされるでしょう。