関わり・恩恵を実感できる再生可能エネルギー事業~市民・地域共同発電所「鶴居サルルンソーラー発電所mini」(北海道)~【平岡俊一】
2019年08月05日(月) 11:28更新
前回に続き、本コラムでも前任地の北海道で私が関わってきた市民活動について紹介させていただきます。今回取り上げるのは、市民参加型の再生可能エネルギー事業(以下、再エネ事業)に取り組む、一般社団法人「くしろソーシャルデザインネットワーク」(以下、KSDN)です。
北海道東部の釧路地域は、広大な土地と豊富な日射量を有しているため、2012年の再生可能エネルギーの固定価格買取制度1)の導入以降、次々と「メガソーラー」2)などと呼ばれる大規模な太陽光発電所が建設されるようになりました。
再エネの導入・普及は、気候変動問題の原因となっている二酸化炭素の排出を削減したり、エネルギー自給率を高めたりする上で重要な取り組みと言えます。しかし、釧路地域で建設されていた大規模発電所は、地元の関係者(自治体、企業等)ではなく、東京や札幌などの遠く離れた都市部の企業が事業主体となったものが多数を占めています。こうした発電所では、売電(発電した電気を売る)で得られる利益の多くは、それらの企業が拠点を置く地域外に流れてしまい、地元に還元されるお金は土地代などごくわずか、ということになってしまいます。また、事業プロセスにおいて、地元住民が関与できる機会はあまりないため、地域内での再エネに対する関心はあまり高まらず、むしろ迷惑な存在という見方もされるようになってしまいます。私は、このような形態の事業が再エネ導入・普及の主流になってしまうことに危機感を感じるようになりました。
そのような時期に、釧路で知り合った地域づくりに取り組む方々と話をしていると、意外なことに同じような問題意識をもっている人が少なからずいることが分かりました。そこで、一度関連するテーマに興味がある人たちが集まり、ざっくばらんに意見交換を行う機会をもってみようということになり、2013年に4回連続のワークショップを開催する運びとなりました。
ワークショップでは、大学生から40歳代くらいまでの参加者のもと、釧路地域での地域づくりや再エネ導入・普及に関する問題課題、あり方などについて活発な議論が行われ、その中では、もっと一般の市民が関与することができ、かつ地元地域でその恩恵を実感できる再エネ事業を実践すべき、という意見が多くあがりました。そこで、ワークショップの終了後、参加者有志で団体を新たに立ち上げて、釧路地域で市民参加型の再エネ発電所の設置に取り組もうという話になり、2014年にKSDNが設立されることになりました。メンバー(理事)は7名と少人数ですが、自治体職員、金融機関職員、会社経営者、弁護士、大学教員など、地域内の多方面で仕事をしている面々が集まっています。
私たちは、その当時、既に全国各地で実践事例が見られるようになっていた、多数の市民が資金や労力等を出し合って再エネ設備を導入する、「市民・地域共同発電所」の実現を目指すことにしました。しかし、いざ発電所設置に向けた活動を始めてみると、特に場所探しなどで様々な課題・問題にぶつかり、1年以上の間、なかなか前に進めることができませんでした。その後、私たちの活動に賛同していただいた人物から、釧路市に隣接する鶴居村内にある自宅敷地の一部を使ってもいいという申し出をもらったことで、ようやく本格的に取り組みが進むようになり、2015年に「鶴居サルルンソーラー発電所mini」(約9kW)と名付けた太陽光発電所を設置することができました。発電所の名称は、鶴居村に多く生息するタンチョウのアイヌ語名「サルルン・カムイ」に由来しています。
この事業の仕組みは、①敷地を提供いただいた方がもともと自費で建設される予定だった太陽光発電所に相乗りさせてもらう形で、全国から寄付金の形で幅広く集めた資金(一口3万円,計36口)を原資に太陽光パネルを追加的に設置(約4kW分)、②寄付者に対して、毎年の太陽光発電の発電量・売電額に応じて,お礼品としてチーズやはちみつ、ソーセージ、お菓子など鶴居村や近隣地域の特産物を年1回ずつ,計7回にわたりお送りする、という仕組みになっています。
お礼品という形ですが、資金を提供していただいたみなさんに太陽光発電で得られた利益を還元するとともに、発電所がある鶴居村の特産物を全国の方に定期的に送ることを通じて、ささやかではありますが、同村の経済活動の活性化に貢献したり、村のファンを増やすことなどを狙いとしています。お礼品の選定等にあたっては、NPO法人「美しい村・鶴居村観光協会」をはじめとする同村の関係各位から協力をいただいています。
一口3万円と、決して安くない金額だったため、ちゃんと寄付金が集まるかどうか不安でしたが、複数のメディアで相次いで報道されたこともあり、募集開始からわずか1週間で予定額に達することができました。寄付者は北海道から四国まで全国各地にわたっていますが、半数近くは釧路地域在住の方々が占めており、地元で一定の注目を集めることができたのではと考えています。
現在のところ発電所は順調に発電を続けており、2019年4月には4回目のお礼品を無事発送することができました。お礼品の選定や寄付者とのやり取り等は、私たちメンバーが手作業で行っています。全員仕事を有している中でこの作業を行うことはなかなか大変ですが、毎年、ご寄付いただいたみなさんやお礼品を注文している地元の事業者さんから応援や感謝のメッセージを頂くことが、大きな励みとなっています。
私たちが設置した発電所の規模は、メガソーラーなどと比較するととても小さいため、得られる経済的利益はごくわずかです。しかし、私たちがこの活動で重視していたのは、市民が関わりや恩恵を実感できる再エネ事業のモデルを自分たちで企画・実践し、こうした形態の再エネ事業の実行可能性を釧路地域で示すことでした。地元の多様な方々の参加・協力により発電所の設置を実現し、新聞・テレビ等でも多く報道されたことなどから、そういった面では一定の意義があったと考えています。
ただ、同発電所の稼働開始以降は、各メンバーの本業が多忙化していることもあり、新しい事業にはなかなか取り組むことができていない状況です。釧路地域をはじめとする全国各地では、相変わらず、企業主導型の大規模な再エネ事業が次々と実施されており、中には、地元に対する説明や合意形成が不十分なまま事業が進められ、住民等から反対運動が起こってしまう事例もあるなど、特に太陽光発電に関しては社会的なイメージがかなり悪くなっているように思われます。
現在の再エネ普及・導入を巡る状況を改めて整理した上で、次に取り組むべき一手について改めて議論をしなければと考えています。
1)略称FIT:再生可能エネルギーから発電された電気を一定期間、一定価格で電力会社が買い取ることを国が約束する制度。
2)出力が1,000kW以上の太陽光発電所のことを言います。