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トマトの話 【林宰司】

2015年11月18日(水) 01:27更新

先日、同僚の先生が「スーパーでおいしいトマトが見つからない」と言っておられるのを耳にしました。任せて下さい、トマトは私の好物でして、トマトについて語らせたら少々うるさいです。

趣味の家庭菜園でも毎年トマトを栽培しています。下の写真は今年の夏に私が栽培したトマトの一部です。一口に「トマト」と言っても、写真を見て頂ければ非常にたくさんの種類があることがわかるかと思います。世に存在するトマトの種類はこの何十倍もあるでしょう。これまで私が栽培したことのあるトマトの種類は20~30種類ほどですが、露地の家庭菜園でうまく栽培するには雨が大敵です。雨が降ると実が水分を含み、実割れを起こしてしまいます。そのため、大玉のトマトは露地栽培では難しいので、大玉トマトを食べたいときは購入することになります。

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私が小さい頃、実家では祖母が畑で栽培したトマトを食べていました。その頃食べていたトマトは、水分が多くジューシーで味が濃く、甘かったように記憶しています。それと比べると、最近スーパーで出回っているトマトは随分と味が異なる気がします。これにはいくつか理由があるようです。

ひとつは、流通しているトマトの品種が変わったことです。トマトにはたくさんの種類があることを前述しましたが、見た目は同じに見える赤い大玉トマトであっても、主に流通している品種は昔と変わっているのです。流通の際に傷みにくい果肉が硬めの品種や、サンドイッチやハンバーガーなどに使用した際に水分が出にくいように水分が少ない品種が流通では好まれるようで、これらの品種に趨勢が変化してきているようです。

もうひとつは、流通上の問題です。市場を介した流通ルートでは、収穫してから店頭に並ぶまでに数日かかるため、完熟の状態で収穫したトマトは店頭に並ぶ際には熟しすぎてつぶれてしまいます。そのため、果実がほんのり色づき始めた状態で収穫する「青もぎり」が行われ、店頭に並んだ時に赤くなるように調整されています。青もぎりのトマトは色こそ赤いですが、完熟での収穫ではないので青臭いにおいがするわけです。トマト嫌いの方の多くは、トマト特有のこの青臭さが嫌いな方が多いようです。
(ちなみに私の研究室の卒業生の鈴木雅大さんは、トマトの青臭さが苦手でトマトが食べられませんでしたが、完熟トマトの美味しさを知ってからはトマトが食べられるようになりました。彼はトマトを対象に卒業研究に取り組み、現在ではトマトを含むおいしい野菜を売る仕事に就いています。)

以上の流通ルートの問題を考慮に入れると、スーパーでおいしいトマトを買うためには、農家から直接仕入れているスーパーを探せば青もぎりのトマトを回避することができます。しかし、仕入れ方法を表示してくれてあれば別ですが、見た目だけでは仕入れルートはわかりません。完熟したおいしいトマトに出会うために、農家の直売か直売所で購入するのが確実です。農家の作業小屋で直売している5月の取れ始め頃の大玉トマトは、スーパーで並んでいるものの1.5~2倍ほどのサイズがあり、非常に甘くおいしいものが多いです。農家の方のお話によると、取れ始めのトマトは、樹の栄養分全てが少ない果実に集まるからだそうです。しかし、市場を経由する流通ルートでは、サイズが大きすぎるトマトは規格化された箱に既定の数が収まらないため、このおいしいトマトが流通しないのです。

最近では、農家から直接仕入れをするスーパーも増えていますが、農家と直接契約することによってロスになる野菜の量が増えるという問題も発生しています。大学近隣のある農場の方にお話を伺いますと、スーパーに一定量を安定的に買い取ってもらうためには、いつからいつまで、どれだけの量を納品するか、という契約をしなければならないそうです。確実に収穫できる期間で契約するため、収穫できはじめと、まだ収穫できるけれども次の品種に植え替えるために終わりにする時期に野菜のロスが大量に発生してしまうそうです。下の写真は、収穫終わりの時期にロスになったトマトを頂いてきたものです。商品としての品質には何ら問題がありません。むしろ、枝を切り落とした後に収穫したので、スーパーに卸しているものよりも糖度が高くおいしかったくらいです。商品価値には全く問題がないにもかかわらず、1つのビニールハウスから、写真のケースで10箱ほど、数百kgのロスが出ました。

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さて、話は戻りますが、結論を申し上げますと、完熟したおいしいトマトを買うには直売所で買いましょうということです。特にお勧めは出始めの頃のものです。それに加え、農家の方から教わったおいしいトマトの選別方法をもう1つだけ伝授しておきましょう。それは、トマトのへそのところに星が出ているものを選ぶことです。下の写真を見て下さい。白い星型があるのがわかるでしょうか。このトマトの星はかなり大きめに出ています。この星型が出ていると、トマトが完熟し、隔壁がしっかりできている証拠で、中にゼリー状の果肉がしっかり詰まっているのだそうです。

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直売所に野菜を買いに行くには、少し足を延ばさないといけないですし、スーパーのようには1か所でその他の雑貨などの買い物を済ませないという不便さもあります。しかし、直売所の野菜には生産者名が表示されていることが多いですので、食べ比べてみて、おいしい野菜を生産されている生産者の商品をリピート購入するという楽しみもあります。皆さんもお気に入りの生産者さんを見つけてリピート購入し、生産者のサポーターになってみてはいかがでしょうか。

【参考】 本学科で学んだ内容を活かし、野菜の研究に取り組んだ卒業生もいます。
2013年度卒業論文
大谷緑 スーパーマーケットにおける畑買いによる規格外農産物の利用実態に関する研究
鈴木雅大 販売実験による消費者の有機・減農薬野菜に対する追加的支払意志額の推計
―「野菜ソムリエの店のら」を対象として―