あえて琵琶湖の話 【香川雄一】
2015年07月10日(金) 06:01更新
昨年、琵琶湖を舞台とした「偉大なる、しゅららぼん」という映画が公開されました。そのストーリーになぞらえて、自分の経験も踏まえつつ、琵琶湖が持つ「力」について述べてみたいと思います。
映画の舞台となっているのは、琵琶湖畔の「石走」という町なのですが、原作を読んでも映画を見ても、明らかに彦根城とその城下町が舞台のようです。主人公が通っている高校が城内にあり、堀を船で通うという設定からも、「彦根」を想定していることが間違いないように感じます。
さて、物語は(商売上の)超能力を持った家系に生まれた主人公が「石走」に住む、いとこの家(=城)に転居し、そこから高校へ通う日常生活から、さまざまな事件が生じることで展開していきます。この映画を取り上げる理由は、超能力が琵琶湖の水や竹生島の神社に関係しているらしいからなのです。
伝統的な地域社会において名水や宗教施設が信仰対象となることは、不思議なことではありません。でも現在の若者にとってみれば、迷信と受け取られるでしょう。ましてや琵琶湖の水に、超能力の源があるとは、小説であればまだしも、にわかには信じがたいことです。
滋賀県立大学に勤務するようになって、3年ほどたったころ、琵琶湖の水を飲む機会に恵まれました。滋賀県の環境計画を検討するワークショップで、近江今津港から船に乗り、琵琶湖の最深地点あたりの水中からくみ上げた水を飲ませてもらったのです。水を飲んだ感想としては、冷たくておいしい水でした。いわゆる湧水は飲んだことはありましたが、湖の水を飲んだことは初めてで、本で読んだことのあった、昔の人は琵琶湖の水をすくって飲んでいた、とはこういうことだったのかと、感動したものです。
以前は臨海部の工業都市やアジアの大都市において環境問題の調査をしていたのですが、琵琶湖の水を飲んで以来、不思議と滋賀県内での調査が増えるようになりました。琵琶湖の漁業者に話を聞いたり、ヨシ業者さんと一緒にヨシを刈らせてもらったり、県内各市の環境関係の会議で住民の皆さんと議論したりと、琵琶湖につながれた縁が増えたのです。
まあ偶然のきっかけと言えばそれまでなのですが、映画のストーリーの結末に合わせて、湖にまつわる力の話に触れておきましょう。物語の後半で主人公と、いとこの家族は、危機に遭遇します。最初は、元の城主の子孫が悪役と考えられていたのですが、じつは意外な人物に操られていたのです。その人物の出自と成長には、ある湖の衰亡の歴史がかかわっていました。湖は豊かな水をたたえてこそ、その回りで力を発揮できるもので、失われたり、汚されたりしてしまうと湖の力を失ってしまう。そうしたメッセージにも思えます。
滋賀県立大学の目の前にある琵琶湖も、汚染された過去があり、面積を減らされてきた歴史があります。水辺の近くで過ごす一人として、琵琶湖の「力」が保たれることを祈りたいと思います。