何を基準に電力会社を選びますか?【白木裕斗】
2018年06月07日(木) 11:00更新
前回のコラムで賃貸住宅選びについて書きました。一年ぶりのコラムで何を書こうか悩みましたが、前回、「何を基準に賃貸住宅を選びますか?」というタイトルでコラムを書いたので、”何を基準に…”シリーズの第二弾を書こうと思います。テーマは“電力会社”です。
みなさんご存知の通り、2016年4月1日から、電力の小売が全面自由化されました。それまでは、家庭や小規模な商店は各地域の電力会社とだけしか契約できませんでしたが、全面自由化以降は、全ての消費者が自由に電力会社を選択できるようになりました。メディアなどでは「自分で電気を選ぶ時代」などと謳われていました。様々な電力会社の様々な電気プランを簡単に比較できる “電力プラン比較サイト”もいくつか登場してきています1-3)。このコラムを読んでいる方の中にも、既に電力会社を切り替えた方がいるかも知れません。
ここでタイトルの質問です。みなさんは、電力会社を選ぶ時に、何を基準にしていますか?まだ選んだことのない、これから選ぶという方は、何を基準に選びたいですか?「電気料金が一番安いところでしょ!」という人もいれば、「考えたことなかった」とう人もいるかもしれません。「いや、そもそも、変える必要ってあるの?何が違うの?」という方もいそうです。実際に、経済産業省が行ったアンケート4)でも、約三分の一の方々が、「メリットが分からない」、「なんとなく不安」を、電力会社を変更しない理由として挙げています。
電力会社を変えると、そもそも何が変わるのでしょうか?前述の電力プラン比較サイト1-3)で電力プラン切り替えのポイントが幾つか紹介されていますが、それらは大きく①価格、②発電方法、③電力以外のサービス、④事業の安定性、の4つに整理できます。
1つ目の“価格”は、多くの人が一番意識するポイントでしょう。時間帯によって電気料金が変わるプラン、ガス・通信サービスとのセットプラン、基本使用料ゼロプランなど、各社が様々なプランを展開しており、自分の生活スタイルにあった電力プランを選べます。
2つ目の“発電方法”は、環境政策・計画学科のウェブサイトからこのページに辿り着いた人であれば、少なからず意識するポイントではないでしょうか?再生可能エネルギー100%の電力プランを用意している電力会社も出てきていますし、地域のエネルギー源を積極的に活用するような電力会社もあります。発電方法を踏まえて電力プランを選ぶことで、自分が望ましいと考える発電方法を応援することができます。
3つ目の“電力以外サービス”としては、顧客対応や省エネサポート等があります。電力プラン切り替え等の手続きの利便性、トラブル時のサポート体制などは、電力会社によって様々でしょう。また、一部の電力会社では、家庭内の電力消費量の見える化サービスや節電キャンペーンといった省エネサポートも提供しています。電力自由化で多くの企業が電力小売事業に参入したことによって、このような電力以外のサービスによる差別化も図られています。
4つ目のポイントは“事業安定性”が挙げられます。上記3つに比べて、見落としがちな点かもしれません。“事業安定性”はその電力会社が電力小売事業を安定的に続けるかどうか、を意味します。事業の継続は各企業の経営判断であるので、当然、各電力会社の経営状況や事業戦略によって変わります。多くの企業が新規参入し競争が起これば、当然、撤退する企業も出てくるでしょう。実際、電力自由化から約2年が経過し、電力小売事業から撤退した事業者が出始めています。私自身、契約していた電力会社が約1年で急に小売事業からの撤退を決めたため、1ヶ月程度の周知期間内で急いで別の電力会社と契約した…という経験をしました(※1)。こういった“事業安定性”という意味では、電力事業を専門にしている会社や規模の大きな会社に安心感を覚える人は多いかもしれません。
ちなみに、事業安定性に似た言葉として“電力の安定供給”があり、電力自由化に関するよくある疑問として「電力が安定供給されなくなるのでは?停電が起きやすくなるのでは?」というものがありますが、これが誤解であることは多くの電力プラン比較サイトでも説明されています(※2)。言い換えれば、「電力の安定供給(≒停電の起きやすさ)」はどの会社を選んでも同じなので、電力会社比較のポイントにはなりません。
以上、特に「電力会社の切り替えを考えたことがなかった人」や「メリットが良くわからない」という人に向けて、「電力会社を変えると何が変わるのか?」を簡単にまとめてみました。誤解を与えないように強調したいのですが、このコラムでは「電力会社を変えたほうが良い!」と主張しているわけではありません。電力プラン切り替えのポイントを比べてみた結果、現在契約されている電力プランが最も自分にあっていたという方も当然出てくると思います。ただ、せっかく自分で電気を選ぶ時代が到来しているので、「よくわからないからそのままで」と尻込みしていてはもったいないと思います。変えるにしろ変えないにしろ、この機会に、一度、自分なりの電力選びの基準を考えて、電力プランを選ぶ機会を作ってみてはいかがでしょうか?
※1 周知期間内に別の電力会社と契約できなかった場合でも、少なくとも2020年3月末までは、従来の各地域の電力会社(関西電力などのいわゆる旧一般電気事業者)と契約することで電気の供給が受けられるので、急に電気が止まる、ということはありません5)。
※2 電力システムは電線を通じて繋がっているため、特定の建物の電力供給だけが不安定になることはありません6)。
1)エネチェンジ:エネチェンジ<https://enechange.jp/>,2018-5-31
2)グッドフェローズ:タイナビスイッチ<https://www.tainavi-switch.com/>,2018-5-31
3)石井:新電力比較サイト<https://power-hikaku.info/>,2018-5-31
4)経済産業省:電力・ガス小売全面自由化に関する消費者選択行動アンケート調査結果を取りまとめました
<http://www.emsc.meti.go.jp/info/public/news/20171031004.html>,2018-5-31
5)経済産業省:問30.小売自由化後、小売電気事業者が倒産した場合や撤退した場合には電力供給が受けられなくなりませんか。
< http://www.emsc.meti.go.jp/info/faq/answer.html>,2018-5-31
6)経済産業省:問28.新しく参入した小売電気事業者から電気を買うと、停電しやすくなるなど、電力供給の品質への影響があるのでしょうか。
< http://www.emsc.meti.go.jp/info/faq/answer.html>,2018-5-31