南ベトナムのラムサール条約湿地【香川雄一】
2017年01月17日(火) 01:09更新
前回(2016年4月)紹介した、北ドイツのラムサール条約湿地に続いて、昨年度(2015年12月)に訪問した南ベトナムのラムサール条約湿地について紹介したいと思います。北ドイツを訪問した時は8月なのに寒くて困りましたが、南ベトナムは12月なのに暑さでたいへんでした。この文章を書いている時(2017年1月)に窓の外では雪が降り積もっていて、改めて地球上の各地での気候の多様性を感じさせられます。
さて、以下の地図に示すように、南ベトナムにはメコン川下流部の大平野が広がっています。ラムサール条約湿地として、内陸に位置する「チャムチム国立公園」とベトナム最南端にある「カマウ岬」を訪問しました。日本からの飛行機は南ベトナム最大の都市であるホーチミン(村上一真先生による2015年5月の教員コラム参照)に着いたのですが、空港からすぐに車で移動したため、最終日の飛行機出発前にホーチミンを少し見学した以外は、ベトナムの農村部を見て回る調査になりました。
最初に訪れた「チャムチム国立公園」は、メコン川流域において洪水時に遊水池としての機能を発揮することから、広大な湿地が広がっていました。管理者へのヒアリングでは、国立公園としてもラムサール条約湿地としても、観光客を集めることによって、自然環境に関心を持ってもらうとともに、経済効果を期待するという意図が伝わってきました。登録湿地周辺の農家へのヒアリングでは、土地利用などにおいて規制されることの不便さの一方で、農産物の販売増加による相乗効果も目論まれているようでした。環境と観光、そして地場産業の連携が実現できたらと思います。
次の訪問地の「カマウ岬」へは、車でほぼ一日半をかけた移動になりました。飛行機や新幹線による移動と比べると、長いと感じるかもしれませんが、車窓からベトナムの広大な水田地帯を眺めたり、地方都市での休憩時にフランス植民地時代の名残を見て歩いたりすると、現地調査の醍醐味を感じることができました。移動時間が長いといっても、メコン川に橋がかけられたことによって、移動時間はかなり短縮したそうです。それまでは船による移動が中心だったようです。
現在でも「カマウ岬」への交通手段は船しかなく、カマウ市内の港から10人乗り程度の高速ボートで1時間ほどかけて移動しました。管理事務所へも船でしか行けません。担当者の説明によると、生物多様性などによる自然の貴重さを守るという使命が強調されていました。確かに沿岸のマングローブ林や岬の先端にあった広大な干潟を見ると、それらを残さなければという気持ちになるのですが、船で移動できたということは運河が人工的に建設されているということでもあり、同じく沿岸には地域住民の集落やエビの養殖地などもありました。持続可能な開発をめぐる問題は地球上のどこででも同じように生じているようです。可能であるならば、住民の生業を維持しつつ、自然環境を保全する方法を実現してもらいたいと思います。
「カマウ岬」からホーチミンへの帰路に、メコン川下流部最大の都市と呼ばれるカントーで一泊し、翌朝、船で水上マーケットを見学しました。果物や野菜などを満載にした船が、所狭しと停泊しており、それらの船の乗員や観光客を相手に商売をする小船も行きかっていました。日本ではほとんど絶えてしまっていますが、水と密接な暮らしをする人々がアジア諸国にはまだ残っており、それらを古いものや不便なものとして過去の出来事だと割り切るだけでなく、環境問題や日常生活を考えつつ、水との関係を再評価していくべきことも必要ではないかと考えました。