環境フィールドワークの舞台裏【高橋卓也】
2021年08月19日(木) 01:56更新
滋賀県立大学に来てから21年めになります。環境科学部全教員が担当する環境フィールドワークも赴任当初から担当してきました。受講する学生は、環境科学部の四つの学科の学生で、教員側も複数学科教員が共同で担当します。これまで三つのテーマのグループに参加しました。その舞台裏をご紹介します。
(1)植物エネルギーの可能性
このフィールドワークは、赴任当初から10年近く担当しました。東近江市のあいとうマーガレットステーション、多賀町の高取山ふれあい公園にある植物エネルギー利用施設を見学させていただきました。もみ殻を炭にしたり、てんぷら油を自動車の燃料としたり、のこぎり屑から木質ペレットを製造したり、木材をガス化して発電をしたり、といった施設です。なかなか収支面で合わないことも多いのですが、1997年の地球温暖化防止の京都議定書の熱気が冷めやらぬ時期でもあり、多くの取り組みが各地で開始されたころでした。
学生さんと炭焼きを本格的な炭窯で体験したり、キャンパスでオイル缶を利用して炭を作ってみたりと楽しい時間を過ごせました。一方で、植物エネルギーが理論上は「カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出については実質的にはゼロ)」であることを受講生に理解してもらうのに苦労したことも記憶に残っています。2030年に二酸化炭素などの温暖化ガス排出55%減、2050年には排出ゼロ,が日本政府の目標となる時代です。植物エネルギーの可能性がさらに大きくなってきたと感じています。(グループD 「木・空間・エネルギー・地域~バイオマスの可能性~」 http://www.ses.usp.ac.jp/fw/fw2d.html へリンク)
(2)河川の流域環境
「植物エネルギーの可能性」担当も長くなったので、専門の森林の環境面にからむテーマとして、河川の流域環境を対象とするこのフィールドワークを担当することとしました。ちなみに、「植物エネルギーの可能性」は2回生向けですが、こちらは1回生向けです。
中下流域のフィールドとして犬上川(彦根市)、矢倉川(彦根市)、上流域のフィールドとして犬上川(多賀町)を歩きました。滋賀県立大学は犬上川の河口部のすぐ隣で、行きかえりの途中でケーン、ケーンと鳴くキジをキャンパスで見かけたり、河口ではびこっていた外来水草を引っこ抜いたりしたこと、上流部に行ったときには、道路が山崩れで行き止まりになっていたり、猿を見かけたり、暑い中、清流の中を長靴でジャブジャブ歩いたりしたのが印象的です。このコラムでも書きましたが、見学地の近所の方とのやりとりもありました。(環境フィールドワーク、川、ソンチュー? http://depp-usp.com/archives/1880 へリンク)
このフィールドワークは現在も続いており、河川環境に積極的に働きかける小さな環境再生プロジェクトを体験できる場となっております。( D)水辺の小さな自然再生http://www.ses.usp.ac.jp/fw/fw1.html#fw1d へリンク)
(3)木と生活
ここ数年は、森林の大切な産物「木材」をどう利用するか—このテーマに取り組んでいます。こちらは2回生向けのコースです。キャンパスからも見える近くの荒神山で樹木の観察をしますし、木を伐り出して、丸太の入札をして、製材をして四角くし、販売する過程も見学します。学生さん自身が、ノミ、ノコギリを使って大工さんが作るような、木と木をつなぐ「継ぎ手」も作っています。木を腐らせて利用する、キノコの栽培もしてみます。
「継ぎ手」は建築の先生の実験室で破壊試験をして、どのくらい強いかを測定します。今年は学生の五つの班に加えて教員班も「継ぎ手」を作ってみました。ただし、教員班はお試し(お遊び?)として木工ボンド接着でどのくらい強く接続できるか、というのをやってみました。その学生班には申し訳ないのですが、一つの班の継ぎ手よりは教員班のボンド接着の方が強いという結果となりました。
実のところ、学生時代(1980年代)に森林について学んでいたころ、戦後日本で大量に植えた木が育ってきて「国産材時代」が来ると言われていました。現実には、木材の自給率は1990年代、2000年代初頭は低迷を続け2002年には18.8%でした。以降は反転が見られ、2019年には37.8%となりました。ここで学んだ学生たちが日本の森林を本当の意味で活かす時代を創り出すことを期待しています。
(グループI 木と生活 http://www.ses.usp.ac.jp/fw/fw2i.html へリンク)
【製材実演】滋賀県立大学の環境フィールドワーク~内保製材へようこそ!(YouTube)
https://youtu.be/oMk2oFCNQo4 へリンク