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環境フィールドワーク、川、ソンチュー? 【高橋卓也】

2015年04月29日(水) 04:24更新

若葉が鮮やかな春です。環境フィールドワークⅠという授業で、これまた若々しい1回生と彦根市近辺の川とその周辺を巡り歩く毎週火曜日の午後が始まりました。約50名の環境科学部1回生、そして寄生虫、環境経済心理学、建築設計、植物生理学がご専門の先生方と私が参加します。

そのフィールドワークの途中、とある川で地元の方とお話しする機会がありました。「あの川の横にはソンチューがあるんで、それをよけて改修したんや。ソンチューは国でもさわれんのや。」とのこと。恥ずかしながら知らなかったので調べてみました。

グーグル検索をすると、質問サイトや司法書士さんのサイトがヒットし、どうも「村中(そんちゅう)」持ちの土地のことのようです。

「村中」について知るには、時代を江戸時代までさかのぼらなければなりません。江戸時代には、現在の集落単位のムラ(自然村)のなかのイエがまとまって農業生産をしていました。ムラは、連帯責任で領主に年貢を納め、そのためにもお互いに助け合い、いわば運命共同体でした。共同で使う山林、草地、墓地などは、「総有」というかたちで一緒に持っていました。これが、村中持ち、ということです。似た言葉で「共有」がありますが、これとは違います。共有だと、個々人に持ち分があり、分割してもらうことができますが、総有では全員が同意しない限り分割はできず、そのムラという集団に所属しているメンバーとして所有または利用ができるだけです。

明治維新となり、江戸時代のムラは合併し、新しい村(行政村)になりました。そのなかで、ある意味「浮いてしまった」のが村中持ちの土地です。いまから100年以上前に制定された民法で、ムラの人たちが伝統的なやり方で「総有」していた土地の権利関係が「入会権(いりあいけん)」として法律的に位置づけられたのです。もっとも、法律では、「総有」という法律関係について定めた規定はありません。この村中持ちの土地がムラの人たちの記名共有名義で登記―ムラの人たちが一緒に持っているという登録―がされていた場合には、この土地を河川改修用地にしようとすると、当時のムラの人たちの相続人すべての同意を得る必要があります。おそらくは、日本全国に散らばった何百名の人々のハンコをもらってまわらなくてはならないでしょう。現実的にはとても難しいことです。

これが「ソンチューは国でもさわれん。」の意味だったのです。

「なんてやっかいなものなんだ」と思うでしょうが、環境問題の解決の妙手がここにあるかもしれないのです。

総有の管理の仕方は、コモンズ(共有地)という資源を管理するやりかたの一種とみることができます。このコモンズについての研究で、エリノア・オストロムというアメリカの政治経済学者は、2009年にノーベル経済学賞を受賞しました。地球温暖化、廃棄物、森林破壊、魚の取り過ぎの問題もコモンズ(共有地)の管理の問題としてみることができます。日本その他の土地の伝統的な社会では、コモンズの管理にいろいろな工夫がなされ、けっこううまくいっていたのです。これが、環境問題解決の妙手―と言った意味です。現代社会のなかで、コモンズは取扱いがやっかいかもしれないのですが、環境問題の解決のヒントもそこにあるかも―といった二面性のある存在です。

5月下旬に、カナダ・アルバータ州エドモントンで、国際コモンズ学会が開催されます。そこで、日本における森林・草原のコモンズである入会林野(いりあいりんや)が政府の施策でここ50年間でどう変化してきたか、研究報告をしてくる予定です。ソンチューとは何のことか知りませんでしたが、実のところ、私の研究テーマとからんでいたわけでした。

(注)
愛知教育大学の青嶋敏先生よりご教示をいただきました。ただし、当然ですが、本コラムの文責は筆者にあります。

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環境フィールドワークで歩く川(写真提供:フィールドワーク1・Dグループ担当教員)

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