いやされるワタシ~森林セラピー体験記~【高橋卓也】
2020年08月19日(水) 11:37更新
長野県飯山市鍋倉(なべくら)高原。新潟県との県境近く。灰白色のなめらかな木肌が立ち並ぶブナの林のなか、シートを敷いて仰向けに寝そべります。森林セラピストSさんの指示で、最初は体を転がして自分の体を感じます。そして体の各部の力を抜いていきます。ブナの木の薄緑の葉の間から日光が輝いて見えます。
なぜ私がここにいるのかというと、木材以外の森林の良いところをうまく生かす方法について知りたいと思っているからです。森林の良いところを堅い言葉でいうと森林の生態系サービスといいます。雨水を蓄えたり、二酸化炭素を吸収したり、レクリエーションができるという働きです。ここで体験している森でいやされるというのもその一つです。生態系サービスもうまく生かす仕組みがないと、誰もそのために森をお世話したり、生態系サービスの使い方を教えてくれたりはしません。より具体的に言うと、生態系サービスに対するお金の支払いがなければ、サービスを生かす人がいなくなってしまうということです。
ここでは「森林セラピー基地いいやま」が森林療法の提供をしています。全国にはNPO法人森林セラピーソサエティが認定した森林セラピー基地が65か所にあります。滋賀県立大の近くでいうと滋賀県高島市にもあります。森林セラピーとは、「科学的な証拠に裏付けされた森林浴」のことです(森林セラピーソサエティ、2020)。歩道はユニバーサルデザイン(障がい者や高齢者も利用しやすいデザイン)に配慮して、木材チップをゴムで固めて歩きやすくなっています。ここでは森林セラピー体験は料金を取って提供しています。
森林セラピーでは、このほかに簡単な体操や目をつむっての歩行、クロモジの枝、スギのヤニの匂いや味覚の体験をしました。森からの出口では深呼吸です。最後に、途中で集めた木々の葉っぱや枝、実などで即席アートを作り品評会を開催しました。
ここ飯山市は豪雪地帯です。雪解け水をそのまま農業用水にすると冷たすぎるので池にいったんためて温めてから田んぼに引いたそうです。そのために使っていた古い池の近くにリクライニングチェアを置き、レモングラスのお茶とクッキーをいただきながら、森林セラピストのSさんからお話をうかがいました。
ストレスを真剣に下げたいと思って、またはストレッチャー(担架〔たんか〕)に乗ったままで森林セラピーを受けた人もいるそうです。首都圏から大型バスで多くのお客は来られますが(もちろんコロナ前でしょうが)、観光的色合いが濃いようです。セラピーとしての色合いをもっと出すためには、医療・福祉分野の人たちとの連携を強めないといけないのでは、と感じました。「森林ガイドとの違いは?」という質問には「森林ガイドでは自然を見つめるが、森林セラピーは自分も含めて見つめなおす。」といった趣旨のお答えをいただきました。
さて、私がいやされたかどうかですが、鈍感なところもあるせいか、あまり分かりませんでした。ただ、「森林だけではなく自分も含めて見つめなおす」という言葉は森林と人間社会との関わりを考えるうえで何かヒントになるような気がしています。実は、森林を含めた自然が健康や幸福度や創造性に与える影響は世界中で研究されています(ウィリアムズ、2017)。私の研究室でも卒論生にこのテーマに取り組んでもらったことがあります(外村、2015)。それらの研究も参考にして、上の方で触れました森林の生態系サービスを生かす仕組みを考えていきたいと思っています。
(参考資料)
飯山市森林セラピー協議会(2020)森林セラピー®基地いいやま< https://www.iiyama-therapy.com/>、2020-8-8ダウンロード
ウィリアムズ、フローレンス(2017)NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる 最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方.NHK出版
特定非営利活動法人 森林セラピーソサエティ(2020)森林セラピー®とは<https://www.fo-society.jp/therapy/index.html> 、2020-8-8ダウンロード
外村大騎(2015)森林ボランティア活動参加者の健康度に関する研究.滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科2014年度卒業研究論文