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3年ぶりに侵略的外来水生植物管理ワークショップを開催【上河原献二】

2022年10月13日(木) 01:44更新

コロナ禍でしばらく研究会(ワークショプ)や現地調査を休止していましたが、この夏からそれらの活動を再開しました。

1.ワークショップの開催
対面では2019年夏以来3年ぶりとなる侵略的外来水生植物ワークショップを、8月17日午後、大津市内で開催しました。私を含めて12名の専門家にご参加いただき、主にオオバナミズキンバイ(写真1)とナガエツルノゲイトウ(写真2)の侵入状況と対策について発表いただきました。

写真1 オオバナミズキンバイ 撮影:上河原

写真2 ナガエツルノゲイトウ 撮影:上河原

全体の状況としては、オオバナミズキンバイとナガエツルノゲイトウの広範囲な定着が起きた手賀沼と琵琶湖については、それぞれ千葉県水質保全課と滋賀県自然環境保全課が中心となった大規模な機械式駆除と手作業を組み合わせた対策によって、随分状況は良くなっています。しかし、手賀沼に接続する河川・農業用水路を通じて、千葉県内の広範な地域に両種が拡散しています。特に水田へのナガエツルノゲイトウの侵入が深刻です。また土の移動を通じて、千葉県内の広範な都市公園にナガエツルノゲイトウが拡散しています(林紀男・千葉県立中央博物館学芸員)。琵琶湖では、湖面から離れた農地への両種の侵入が新たな課題となっています(中井克樹・滋賀県自然環境保全課副主幹/琵琶湖博物館特別研究員)。

霞ヶ浦では、オオバナミズキンバイについて、国道交通省、茨城県自然博物館などによる対策の結果、大きな拡大は抑えられていますが、新たな場所への拡散が確認されています(伊藤彩乃・ミュージアムパーク茨城県自然博物館学芸員)。

琵琶湖疏水の下流に当たる京都市内の鴨川にはオオバナミズキンバイが侵入していて、京都府と市民団体が協動した対策が行われています(平野滋章・京都府自然環境保全課副主査)。また淀川に近い高槻市内の農地では、市民団体による対策にもかかわらず、ナガエツルノゲイトウが定着しています(高田みちよ・高槻市立自然博物館(あくあぴあ芥川)学芸員)。

大阪府下では、オオバナミズキンバイが、琵琶湖とは水系がつながっていない大和川・恩智川に大規模な群落を形成しているとともに、堺市や岸和田市などのため池にも定着しています(横川昌史・大阪市立自然史博物館学芸員)。

今回注目されたのは、福井県敦賀市の中池見湿地で、オオバナミズキンバイとナガエツルノゲイトウと見られる個体が報告されたことです(藤野勇馬・NPO法人中池見ネット)。

このような琵琶湖とは水系がつながっていない箇所へのオオバナミズキンバイの出現は不思議です。しかし、水鳥の糞の中からオオバナミズキンバイの種子が確認されているので、水鳥による種子拡散の可能性が指摘されています(稗田真也(豊橋市自然史博物館学芸員)他未発表)。

ナガエツルノゲイトウの農地への侵入については、国の研究機関(農研機構)による対策の研究が行われています(嶺田拓也・農研機構研究員)。

(紙面の都合で全ての発表を紹介することはできず恐縮です。)

2.エクスカーション
8月18日にはワークショップの参加者で貸切りバスに乗って、オオバナミズキンバイ・ナガエツルノゲイトウの侵入場所を見学しました。京都市内の鴨川(くいな橋付近)、高槻市内の農地・用水路、東大阪市・八尾市内の恩智川(おそらく現在西日本最大級で断続的に数キロに及ぶオオバナミズキンバイ群落、写真3)、羽曳野市内の大和川支流の飛鳥川(駒ヶ谷駅付近)、堺市内の菅池(写真4)を見て、最後に大阪市立自然史博物館で侵略的外来生物などの展示を見学しました。
大阪府下のオオバナミズキンバイの分布状況については、横川昌史学芸員(大阪市立自然史博物館)によって継続的な調査が行われています。しかし、府・各市の行政部局による対策は行われていないのが残念です。

写真3 東大阪市・八尾市の恩智川のオオバナミズキンバイ群落  撮影:上河原(2022年8月)

写真4 堺市内・菅池のオオバナミズキンバイ群落  撮影:上河原(2022年8月)

3.海外調査出張と今後の課題

写真5 仏・ブリエール地域自然公園内のオオバナミズキンバイ群落 撮影:上河原(2022年9月)

オオバナミズキンバイは、フランスでは既にほとんどの地域に拡散しています(例:写真5)。写真5の場所は、対策の専門家のいる地域自然公園内なので、比較的よく管理されているのですが、他では放置されている場所も多く見られます。対してイギリスでは、小規模な定着地はありますが、そのすべてが管理下に置かれていて、かつその内のかなりの割合で、地域根絶が達成されています(Kamigawara et al., 2020)。日本におけるオオバナミズキンバイの侵入が、そのどちらの道を行くのか注目してきました。このまま多くの箇所で対策が行われないままになると、早晩フランス型の道を進むことになるでしょう。
この9月、久しぶりにイギリスとフランスに出張して侵略的外来生物対策の専門家達に会ってきました。侵略的外来植物については、全国規模の長期的封じ込めプログラムがなくて、対策は各自治体任せになっているところなど、日本とフランスの対策の状況はよく似ているというのが、フランスの専門家たちと認識の一致するところでした。
侵略的外来植物に対する全国規模の長期的封じ込めプログラムは、世界的に見ても未だ多くありません。農林水産業保護のための動植物検疫以外で侵略的外来生物対策が始まったのは、ほとんどの国において2002年以降と若い政策分野ですから、不思議ではありません。私の知るところ、そのようなプログラムを導入できているのは、ニュージーランド、オーストラリア、イギリスの三ヶ国です。どのような社会的条件でそのようなプログラムを導入できるのかというのが、今後の研究課題だと思います。