人はなぜ環境保全活動に参加するのか?【平岡俊一】

2018年08月01日(水) 10:27更新

今年4月に本学科に着任した平岡俊一です。3月までは北海道釧路市にある大学で勤務していました。市民参加・協働による持続可能な地域づくり推進のための仕組み・体制づくりに関して研究を行っています。特に、その中での環境NPOの存在に注目しており、自分自身もいくつかの団体の活動に関わりながら研究に取り組んでいます。

初めてのコラムとなる今回は、北海道で関わり続けてきた団体のひとつ、認定NPO法人「霧多布湿原ナショナルトラスト」(以下、トラスト)について紹介したいと思います1)。同団体は、道東・浜中町内に存在するラムサール条約登録湿地「霧多布(きりたっぷ)湿原」の保全を目的に、全国の市民・企業等から寄付金を募り、それを原資に湿原内の民有地の買取を進める「ナショナルトラスト方式」の活動を展開するNPOとして全国的に知られています。その他、町内の自然資源を活用した観光(エコツアー)や産業活動(漁業、酪農業)の活性化など、地域振興に関する活動にも積極的に取り組んでいます。

琵琶瀬展望台から見た霧多布湿原

トラストの活動は、1980年代に東京から浜中に移住して喫茶店を開いたAさんが、店に集まる地元の若者たちに湿原の保全・活用に関する取り組みを提案したことがきっかけで始まりました(Aさんは、その後長く、トラストの中核メンバーとして活動の発展に尽力されてきました)。何度かの組織形態・名称の変更を経ていますが、現在に至るまで約30年の間、一貫して地元の住民が中心となった活動を展開してきました。現在も役員(理事等)の半数以上を浜中町在住者で構成する、地元住民主導型の団体と言えます2)

トラストの事務所兼カフェ

一般論として、自然環境に身近なところに住んでいる人たちにとっては、その存在が当たり前のものと感じるため、多数の住民が主体的に保全活動に関わるようになることは容易ではない意見がよく聞かれます。私自身もそれに近い考えをもっていたため、トラストが地元主導型で活発に活動を展開していることにとても興味を惹かれました。

トラストとの関わりを持ち始めた頃、ちょうど私の研究室には浜中町出身の学生がいました。彼女は、私と同じような関心をもち、卒業論文のテーマを、地元の人たちがどのようなきっかけでトラストの活動に参加するようになったのか、なぜこれまで活動を継続してきたのか、といった疑問を明らかにすることにし、町内在住の複数の役員を対象にインタビュー調査を行いました3)

インタビューの結果、役員の方々の参加のきっかけとして多く聞かれたのは、全国各地から浜中を訪れる人たちと交流する機会をもったことで、今まで当たり前(むしろ邪魔)なものと思っていた身近な湿原が全国から評価されていることを知り、次第に自分自身も湿原が貴重な存在であり、これを守りたい、子供たちに残したいと思い始め、活動に参加するようになった、というものでした。外部からの評価に接したことがきっかけになっていると捉えられます。

霧多布は「花の湿原」として知られている

しかし、インタビューではそれ以外にも様々な声が聞かれました。

「もともと自然や湿原には関心がなかった。でも知り合いに誘われて行ってみると、そこに集まる人たちの人間関係がとても良くて居心地がよく、みんなと一緒に何かをやってみたいと思うようになった。」

「都会から浜中に来てがんばっている人(Aさん)を見て、彼を支えたいと考えるようになった。」

「普段知り合えない全国各地の人たちとのつながりが生まれ、多くの刺激を受けられる。他地域のことを勉強できる。」

「活動に参加することで、この地域で生活していることや仕事をしていることを前向きに評価できるようになり、それらを楽しむという感覚が生まれてきた。」

「自分がもっている地域内でのネットワークや特技が、仲間の活動を発展させることに貢献できる。」

これらの発言からは、トラストの主要メンバーが活動に参加、継続している理由は、必ずしも自然環境を守りたいという想いだけでなく、いい仲間に出会えた、この仲間たちと一緒に何かしたい、多様な人たちと交流できて刺激を受けられる、地元での暮らしや仕事に対する考えが前向きになれる、自分が有している資源や技能で地域に貢献できるなど、実に多様であることが分かります。このような、参加する人たちにとって多様なやりがいや収穫、楽しさを実感できる活動にしていくということは、他の地域でも住民を巻き込んだ環境保全活動の実現を考える上で重要なヒントになるのではないかと思われます4)

また、トラストの理事を務めるBさんは、インタビューの中で、「自然への強い愛情や専門知識がない自分が活動に関わる資格はあるのかよく考えてしまう。でもそんな人間でも気軽に参加できることがトラストのよさだと思う」と発言されています。いろいろな意見が出そうですが、環境保全活動への参加の敷居を低くすることや、多様な考えの持ち主を受け入れる柔軟性・多様性を有することも重要な要素になりそうです。

1)霧多布湿原ナショナルトラストのHP:http://www.kiritappu.or.jp/

2)同団体の活動の詳細については、平岡俊一「環境まちづくり活動の担い手としてのNPO――認定NPO法人霧多布湿原ナショナルトラストによる取り組み事例から」『人間と環境』42(1)(2017年)をご覧ください。

3)なお、彼女は大学卒業後、トラストに専従職員として就職することになり、現在は同団体の活動の中核を担っています。

4)研究結果の詳細については、柴田真由子・平岡俊一「地域の自然環境に対する地元住民の認識変化と保全活動関与のきっかけに関する考察――認定NPO法人霧多布湿原ナショナルトラスト関係者へのインタビュー調査から」『ESD・環境教育研究』18(2016年)をご覧ください。