フランスの湿原を侵略した美しい花―オオバナミズキンバイ 【上河原献二】
2015年10月14日(水) 11:30更新
琵琶湖沿岸では、南米原産のオオバナミズキンバイが広い範囲に増殖しています。そのため漁船の通る水路や港の水面がふさがれるなどの問題が起きて、大きな政策課題となっています。先進国の中でオオバナミズキンバイによる侵略を一番広範かつ深刻に受けているのはフランスです。オオバナミズキンバイは黄色い美しい花を咲かせます。そのため園芸用に1820年代に南仏のモンペリエの植物園に輸入されました。それが手始めとなって2000年代にはフランス本土の山地を除くほぼ全域に拡散してしまったのです。在来種を排除して生物多様性を減少させるほか、漁船、レジャーボートの航行障害、更には農業被害などが起きています。
日本におけるオオバナミズキンバイ対策に役立てるため、本年9月中旬に、フランスに調査に行ってきました。国際自然保護連合(IUCN)フランス委員会を中心とする水生外来生物管理の専門家グループに連絡を取って、ご協力をいただきました。その中で、大西洋岸のブルターニュ地方の現場を見せていただきました。まず、ロワール川河口の北に位置するブリエール地域自然公園を訪れました。そこは大昔の入江の跡の大湿原です。冬になると水位が約1メートル上昇し、広大な水面が現れるとのことです。中心部はアシ原ですが、周りは牧草地になっています。ブリエール湿原では、水路だけではなく更に牧草地にオオバナミズキンバイが侵入しています。現在では牧草地において1000haを超える面積がオオバナミズキンバイによって占められているとのことです。オオバナミズキンバイが侵入した牧草地では、牧草の生産が減少するなどの被害が生じています。牛や馬などの家畜は、オオバナミズキンバイを余り食べないのだそうです。また、ブリエール湿地の北に位置するヴィラン川流域の湿地を見せていただきました。そこは生物多様性保全上重要な場所を指定する欧州共通の制度である「ナトゥーラ2000」に指定されています。ヴィラン川流域の湿地でも、水路だけではく牧草地にもオオバナミズキンバイが侵入しています。そこでは、機械式と人力による除去作業の様子も見せていただきました。
オオバナミズキンバイが水面だけではなく湿潤な牧草地にも侵入するに至って、国に対する政策への要求が農業団体から強まっているとのことでした。自然保護に関心のある人たちだけの問題ではなくなっているのです。今日のフランスの姿は、明日の日本の姿かもしれません。
私の調査を受け入れてくださったIUCNフランス委員会の専門家グループの皆様に感謝します。
ブリエール地域自然公園管理センター
この地域特有のアシでふいた屋根
玄関脇は、今回のナント・ブルターニュ地方の専門家達への訪問を調整してくださったMarie-Jo Menozzi博士(人類学)
2015年9月15日上河原献二撮影
ブリエール湿地における湿潤な牧草地の風景
冬季は1メートルほど水位が上昇し、広大な水面となる。
2015年9月15日上河原献二撮影
湿潤な牧草地に広がるオオバナミズキンバイ
ブリエール湿地は大昔の入江跡
この地点は海岸から見て奥の地点で、泥質層が厚い場所のこと
画面左上に農家の屋根が見える。
2015年9月15日上河原献二撮影
オオバナミズキンバイ(Ludwigia grandiflora)の群生
ブリエール湿地の湿潤な牧草地 水路脇
季節の終わりのため、花は小さい
2015年9月15日上河原献二撮影
湿潤な牧草地一面に侵入したオオバナミズキンバイ
仏ブルターニュ地方 ヴィラン川流域湿地(「NATURA 2000」指定地)
2015年9月15日上河原献二撮影
手作業によるオオバナミズキンバイ除去
ヴィラン川流域湿地にて
作業期間は春から夏とのこと
2015年9月15日上河原献二撮影
機械式除去後のオオバナミズキンバイ
ヴィラン川流域湿地にて
2015年9月15日上河原献二撮影
根の部分まで比較的よく除去できている。