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「環境にやさしい」って何?【吉川直樹】

2023年03月09日(木) 12:16更新

2022年4月に着任しました吉川です。よろしくお願いします。
今回初めてコラムを書きますので、少しだけ専門分野の紹介を兼ねたお話をしたいと思います。

「環境にやさしい」という言葉を、最近は至る所でみかけます。特に、製品の説明や広告などで、目にする機会が多いと思います。良いことだという印象を多くの人が持っているのではないでしょうか。一方で、その意味を深く考えることはあまりないのではと思います。よくよく考えてみると、「環境にやさしい」というのは、とても曖昧な言葉なのです。
私の学生時代、ある先生が「『環境にやさしい』というのはあり得ない。『環境に厳しい』か『環境にとってまし』のどちらかだ」ということを言っていました。人間は生きていくうえで多かれ少なかれ「環境」に負荷を掛けています。それは様々な努力によって減らすことができますが、全てをゼロにすることはできません。そういう意味では人間は環境にとって「やさしい」ことはないといえます。「少しだけ負荷を与えている」状態を「やさしい」と表現するのはやや無理があるでしょう。
また、「環境」というのは何を指しているでしょうか。地球という天体のことではないと思います。いくら大気や水が汚れても、いわば地球の表面だけのことで、天体そのものの存亡には何ら影響はないはずですから。「環境」という言葉の前に、「人間にとっての」あるいは「生き物にとっての」という枕詞を付けるとしっくりくるのではないでしょうか。生き物が減って最終的に困るのは人間ですから、前者の比重がより重いものと思われます。

以上をまとめると、いわゆる「環境にやさしい」というのは、すなわち「人間の住む環境にとってまし」ということを意味しているということになります。環境に負荷を与えていることを自覚したうえで、それをいかに「まし」にしていくかを考えていかねばならない、ということでしょう。ちなみに「エコ」「環境に良い」という言葉も同様に曖昧な言葉といえます。
ところで、「環境」に「厳しい」か「まし」かはどのように判断するのでしょうか。世の中には、「環境にやさしい」ということを謳いながら、実際にはそうではない商品や活動が数多くあります。このような見せかけだけの環境配慮は「グリーンウォッシュ」などと呼ばれます。このようなグリーンウォッシュを回避するためには、消費者が正しい情報を得ること、企業などが客観的な情報を提供することが重要です。商品等が「環境」に「厳しい」か「まし」を何かしらの「ものさし」を使って評価することは、客観的な情報提供のための有力な手段となります。その評価の方法の一つが、ライフサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれるものです。LCAでは、製品やサービスのライフサイクル(たとえば製品なら原材料の調達から製品の製造、使用、廃棄までの「製品の一生」のことです)を通じた環境負荷を定量的に計算し評価します。一定の手法でもって導かれた数字は、環境負荷の大小を判断するための信頼性の高い情報となります。LCAについてより詳しいことは、またの機会に書きたいと思います。